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最大限度10

2012.04.24 09:23|Novels
 それから何事もなく月日は流れた。
 チョッパーの言いつけを守って、しっかりとベッド上での生活を送っていたサンジは、8か月入る頃には何とか切迫早産の状況も落ち着き、チョッパーの許可を得てまた少しずつ動くようになった。
 それまでの間は何かと気が気じゃない日が続いたので、サンジだけでなく仲間達も神経をすり減らしていたが、万が一のことが今後起こっても赤ちゃんが育つ可能性のある周期に突入したことで、一先ず安堵の息が落ちている状態だった。
 だからと言って危険な状況には変わりないし、船の上にはちゃんとした出産時の設備があるわけでもない。
 早産児の場合、万全な治療を与えてやれるだけの環境が整っていない分の不安はどうしても付き纏う。 
「いやー、しっかし、一日中ベッド上での生活ってのはもう勘弁だな」
 チョッパーの許可が下りたと言っても過剰な歩行はやはり禁止状態なので、ダイニングのテーブルの椅子に座ってサンジはレシピ帳を捲りながら、仲間相手に愚痴を零していた。
「その点ゾロの奴はすげーよな。あれだけ寝てられんだからよ」
 ウソップの軽口に頷いて笑えば、後ろからルフィがサンジの首に腕を絡めてくる。
「サンジー、腹減った」
「またか? さっきテメエはオヤツ食ったばかりだろうが!」
 呆れつつもいつもの流れなので、棚にクッキーが作り置きしてあることを教えてやる。
 嬉しそうに飛び跳ねるルフィの後ろから、「いいなー」とチョッパーが涎を垂らしそうにしていたので、サンジは更に笑ってチョッパーを手招きするとその耳にこっそりと教えてやった。
「ルフィの分とは別にお前等の分は取ってあるから安心しろ」
「本当か!」
 途端分かりやすくチョッパーが目を輝かせる。
 これだけ素直に嬉しさを表現されると、こっちも嬉しいってもんだ。
 ルフィがクッキーを味わう欠片もなくほとんど丸呑み状態に頬張って甲板にまた飛び出して行くのを見送り、サンジは調理台の下の棚を開けた。
「ほらよ」
 テーブルの上にルフィの分とは予め分けて置いたクッキーの山を置くと、ウソップとチョッパーが我先にと頬張り始める。
「他の奴等にも後で持って行ってやってくれよ」
 言って自分はまた椅子に腰かけた。
 普段ならナミさんとロビンちゃんに真っ先に持って行くところだが、チョッパーの許可が下りた日に張り切ってオヤツを作り甲板上にいた2人にそれを持って行ったら、散々に怒られてしまったのだった。
 お腹が空いたら自分達がキッチンに行くから、サンジ君は動かないで! なんてことを口をすっぱくして言われてしまったなら、それに従わないわけにはいかない。
 真っ先に女性陣にオヤツを持って行き、そのおいしいと言ってくれる綺麗な微笑を見るのが楽しみだったサンジにとっては残念の一言だ。
「おお、任せとけ!」
 ウソップがトンと胸を叩いて、いくつか皿に取り分けて甲板に出て行く。
 それを見送って、チョッパーと2人っきりになった室内で、サンジは自分の腹に手を置いて確認するなり、少し声を潜めてチョッパーに言った。
「あのよ、チョッパー・・・昨晩あたりから妙に腹の張りが酷いんだよ・・・これって大丈夫なのか?」
「え!?」
 チョッパーが露骨に驚いた顔をする。
「ちょっと見せて!」
 慌ててチョッパーはサンジのお腹に手を置いた。
「出血とか、破水の症状とかある?」
「いや、ねえと思うけど」
「確かにお腹が張ってる・・・でも、まだ時期じゃないし・・・」
 チョッパーがブツブツと独り言を繰り返す中、サンジは自分の手を握り締めてみた。
 長く女の体でいるせいで最早思い出す感覚は懐かしいものに変わりかけていたが、何となく手を握った感触が可笑しいのだ。
 力の入り具合が男の時の体を彷彿させるものに、近くなっているような気がする。
 それは前に男の体に戻ろうとした時の感覚に、少し似ているようでもあった。
 そのことを告げると明らかにチョッパーの顔色が変わる。
 以前の自分ならギリギリまでこの症状のことを黙っていただろうが、今は自分1人だけに関わってくることではないのだ。
 少しでも可笑しいと自分で感じたなら、やはりチョッパーの耳には入れておくべきことだろう。
「えっと、とにかくサンジは寝てて」
「えっ! またベッド生活か?」
「俺、ちょっと調べてくるから・・・直ぐに戻るよ!」
 仕方なく医療室へ向かおうと腰を椅子から浮かび上がらせたサンジを慌ててチョッパーが制止する。
「待って、今、ゾロ呼んでくるから!」
 仲間内では常に一番暇そうにしていて、力もあると言う理由で、何かとある時歩行禁止状態だったサンジを運ぶ役はゾロが担っていた。
 別にゾロじゃなくてもいいんだけどな・・・むしろ、フランキーとかの方が力もあってデカい分、安定感もありそうだし・・・とサンジは密かに溜息を吐く。
 子供が生まれてくるのは、最初の頃の戸惑いなどどこへ行ったものかと言うほど、今となっては楽しみだ。
 だけど、その顔を見るのが怖い自分がいるし、ちゃんと生まれてきてくれるのかと言う不安も当然ある。
 生む時はそりゃ死んだ方がマシってほど痛いって言うが、何度も死線を潜り抜けてきた自分にはそんな痛みなど恐怖と思うものにはならない。
 そんなものより怖いのは、やはりあいつの存在なのだ。
 暫くして心地よく寝ているところを起こされたのか、寝起きの悪さを表立たせた不機嫌さ丸出しのゾロが顔を見せる。
「悪いな・・・何かチョッパーが大騒ぎしてるけど、別にどうってことねえんだ」
「てめえのそりゃ信用ならねえから、チョッパーもあれだけ騒ぐんだろうが」
 ゾロの手が伸びてくる。
 大丈夫だと、弾き飛ばそうかとも思ったが、この時にはもう、徐々にお腹の張りに痛みが伴い始めていた。
 あまり良くない傾向のような気がする。
「痛えのか?」
 少し顔を歪めた瞬間を聡く見咎められたらしい。
「ああ、ちっとな・・・・・・」
 何だか鼓動が痛い。
 ゾロが傍にいるからだろうか・・・。
 体の奥底からせり上がってくるずんぐりとした感覚。重さのような衝撃のような・・・。
 胸をかける鼓動の煩さが吐き気になっていく。
 緊張してるのか、俺?
 いや、違う・・・この感覚を俺は前にも感じたことがある。
 体が女の体から元の男の体に戻ろうとする時の、あの言葉に言い表しようのない奇妙な感覚だ。
 関節がミシミシと悲鳴をあげる。
 腹だけでなく、あちこちが徐々に痛みだして軋むようだ。
 急激な熱を手や足の先に感じた。
 体の尺度が分解されるような、そんなとんでもない、悲鳴さえも潰されそうな衝撃。
「おい、どうした?」
 思わず床に蹲ったサンジの異変に気付いたゾロが声をかけてくる。
 サンジはゾロの腕を咄嗟に掴んだ。
 掴んだ感触があまりない。
 指先が今まで篭っていた熱を全て霧消させて、今度はやけに冷たく感じる。
 血液の循環がおかしいんだ、きっと。
「ちょっと、まずいかもしんねえ・・・」
「は? 生まれんのか??」
「違う、そうじゃなくって・・・体が・・・・・・男に戻ろうとしてるような・・・・・・」
「は???」
 ゾロがどうすればいいのか分からないでいるうちに、相当苦しいのかサンジがいよいよ本格的に体を抱え込んだ。
 内側からの衝撃を必死に噛み殺すよう。
 顔が、唇が蒼褪めている。
 掴んでいたゾロの腕から手を放し、サンジは自分の腕を今度は掴んで自身を抱き締めるようにした。
 その指先によっぽどの力が篭っているのか、爪の先が白く色を失っている。
「お、おい、俺はどうすればいい! チョッパー呼べばいいのか、それともテメエ運んでからの方が・・・・・・」
 いつになく焦ったようなゾロの声にサンジは少し笑った。
「ハハッ、テメエが慌ててどうするんだよ。どうしようにもカマバッカから送られてきたあの調味料は全部あの時に呑んじまったからな・・・・・うっ・・・」
「痛えのか・・・?」
「ああ、痛え・・・・・・俺じゃねえぞ? たぶん、腹ん中のこいつが痛えんだ・・・俺が痛みを感じるってことは、こいつはもっと痛いはずだろ・・・・・・」
「チョッパー呼んでくるから待ってろ」
 サンジはゾロの腕を掴んで、ゾロの行動を遮った。
「チョッパーなら直ぐ戻ってくるだろ・・・それよりテメエはここにいろよ・・・」
 ガチガチと歯の根が合わないぐらい震えているせいか、引き止める声も同じように震えていた。
 ナミとチョッパー2人に念を押されて言われていたことをゾロは思い出す。
 どんな場合でも決してこいつを1人にするなってことだ。
 1人にさせて、その間に以前の襲撃のように、何かあったら・・・・・・。
 だが、今こいつは苦しがっている。
 一刻も早くチョッパーに診せるべきだろう。だが、確かにこの場に1人置いていくことも出来そうにない。
 抱えて行くにしても、この状況では移動させることすら少々危険な気がした。
 確かにチョッパーなら直ぐに戻ってくるだろう。
 ゾロがチョッパーに声をかけられた時、チョッパーはちょっと図書館に本を取りに行くだけだと言っていた。
 それまでの間、どうやってこいつの苦しみを和らげてやることが出来るだろう。
 サンジの震えが掴まれた腕を通して伝わる。
 寒いのかもしれない。
 グルリと室内を見回して、ソファの上にブランケットを見つけたのでそれを肩からかけてやる。
 それでもサンジの震えは止まらない。
 言葉数も少なくなってきた。
 意識が朦朧としてきているのかもしれない。
「おい、寝んなよ! 何か言え!!!」
 怒鳴り声に、サンジがハッとしたように顔を上げてゾロを見た。
「ハハッ、こんな時に何かって何だよ・・・・・・」
「別に弱音でも何でもいい。聞いてほしいことがあったら何でも聞いてやる」
「聞いてほしいことか・・・・・・そうだな・・・って、そうなると遺言みてえじゃねえかっっ!!!!」
 思わず突っ込んでしまって、きょとんとしたゾロの顔にブッと噴き出すようにサンジは笑った。
「まずはお前が落ち着けよ・・・聞いてほしいことがあったら、今なら何でも聞いてやるぜ、マリモちゃん?」
 皮肉るような言い方にゾロは溜息を吐いたのと同時に、ほんの少し安堵する。
 いつものこいつだ。
「テメエは怖くねえのか?」
 ゾロはふと訊ねてみた。
 考えてみればこいつは普段から滅多に人の前で弱音を吐いたりしない奴だったが、こうなってからも極端な弱音を仲間達の前で見せることはなかった。
 勿論そう訊いたところで、こいつなら「誰に向かって物言ってんだ!」とか、「怖くねえ!」とか突っぱねるだろう。
 ゾロも、てっきりそう言う返答が返ってくるだろうと思い込んでいたわけだが、反してサンジはあっさりと肯定してきた。
「怖くねえわけねえだろう・・・俺は元が男だから、ちゃんとこいつを生んでやれるのかも分かんねえし、生んでも育てられるのかとか・・・。それにこう言う風に直前で体が男に戻る可能性も考えてなかったわけじゃねえ。チョッパーにも相談してたんだが、やっぱ俺が口にしたあれは悪魔の実の特殊能力でしか生みだせねえもんみてえだから、対処法がチョッパーにも分かんねーみたいだった。あんま困らせるのもなと思って黙ってたが・・・・・・もし駄目だったら・・・・・・」
 言葉が途切れる。
 サンジは顔を下に俯けてしまった。雪崩れた金髪の隙間から強く噛み締められた唇の蒼さが目につく。
 悔しいのだろう、きっと。
 何も出来ない自分が・・・。
 もどかしく不甲斐なく、もっとちゃんと守ってやりたいのにそう出来ない。
 ずっとそんな葛藤を抱えてこいつは腹の中のガキに謝り続けていたのかもしれない。
 ゾロは自分の手を見た。
 剣ダコだらけのゴツゴツとした手だ。
 何も出来やしないのは自分だって同じだ。
 女のこいつを抱いた夜、気が高ぶっていたこともあった。
 男の体の時も無茶をさせたことはあったが、その時の比ではなく、かなり無理をさせた。
 優しくしろとこいつは言ったが、優しくしたいと思うその裏側で、どうしても自身を制御できない自分がいた。
 男であっても、女であっても、こいつは俺を内側から煽っていくのだ。
 いつだって喧嘩と言う範囲で、あるいは戦いの最中で、こいつには闘争心を焼き付けられたように、俺はこいつの前では闘争心を鈍らせることは決してなかった。
 対等であったはずのそんな男が、ある日忽然と女になった。
 ずっと前に死んだ、幼馴染のクイナのことを思い出した。
 女である自分を嘆き続けたクイナの涙。
 それに重ねるよう、あれだけ強かった男が、敵に囲まれ床に押さえこまれ今にも犯されそうになっているのを見た瞬間、クイナがあの時言っていた男と女の差を改めて思い知らされた。
 男だとか、女だとか、そんなの言い訳でしかないと思っていた。
 初めて、他人相手に優しくしたいと思った夜。
 あの日の熱を忘れたことはない。
 だが、こいつはあっさり否定しやがった。
 俺にだって心当たりが無かったわけじゃねえ。
 こいつの否定を信じるべきか、疑うべきか。
 どのみち元から気まぐれな男だとは分かっていたから、本当に気まぐれで街で男をあさっていたのかもしれねえ・・・そう思った。
 だが、どこかでそんなことするような奴だろうか? と言う思考が走った。
 その時点で俺の中でこいつに対する疑念と罪悪感が生まれた。
 こいつが何度も倒れる度に、苦しげにする度に、俺のガキじゃねえと分かっていても、あの日の熱を忘れたことがなかった分、1つ間違えたら俺のガキになったかもしれねえんだ・・・と言う部分が警鐘を鳴らした。
 悔しい・・・そう思うのは、きっと俺も同じだ。
 せめてこいつが望むのなら無事に生ませてやりたいと俺も思ったからこそ、仲間達の意見に賛同し、俺はこいつに悟られないよう敵襲やトラブルの全てを最前線で片付けてきた。
 それでも、守り切れずあんな風にあいつは傷ついて、折角安定したところをまた寝たきりの生活に戻って、どれだけあいつは悔しかっただろう。
 どれだけ自分を責めたのだろう。
 あんな風に笑うぐらいに。俺の前でも心配かけさせまいと笑うぐらいに。
 ゾロはサンジを抱き締めてみた。
 その背を、腰を、腹の辺りを優しく擦ってやる。
「大丈夫だ、きっと。心配すんな」
 無責任かもしれねえ。だが、そんな言葉しかかけられねえ。
 だが、サンジはゾロの胸に顔を押し付けてコクンと首を頷けた。
「きっと、強え子だって思うんだ・・・どっかの誰かに似て、馬鹿で、アホで・・・・・・殺しても死なねえような・・・・・・」

 だけど、ちょっと目を離すと迷子になっちまうかもしれねえだろう?
 どこかで眠りこけちまってるかもしれねえだろう?

「ああ、そうだな・・・・・・・・・」
 ゾロも頷いた。
 チョッパーの歩幅の狭い特徴的な足音が聞こえてくる。
 どうやら戻ってきたらしい。
 医療室に向かいかけていたその足音を大声でゾロはキッチンの方へ呼び寄せた。
 チョッパーがサンジの状態を見て血相を変える。
 分かりきっていたことだが、やはりあまりいい症状ではなさそうだった。
 ゾロがサンジから体を放そうとすれば、ぎゅっとしがみ付いていたサンジの手がまた引き止めて、真っ青な顔がゾロを見た。
「テメエがそう言うから大丈夫だってことにしといてやる・・・だから、心配すんな」
 今ゾロが言った言葉を繰り返して、ニッと笑うサンジに、相変わらずの強がりかと呆れたが、こいつらしいとも思った。
 動かすのはやはり危険だと判断したらしいチョッパーがゾロに毛布を沢山持ってくるように指示を出す。
 キッチンの騒動に気付いて仲間達が次々と顔を出したので、それぞれに役割が淡々と割り当てられた。
 皆、何だか泣き出しそうな顔で、それでも泣くまいと必死に堪えて動き回った。
 何をすればいいのか分からないのはきっと皆同じで、チョッパーがそれを言う瞬間まで息を詰めて、手伝えることを探すしかないのだ。







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 思っていた以上に反響が大きくて在り難いやら嬉しいやらで。
 たぶん一番自分が展開にドキドキしてる(笑)
 あと数話程度で完結出来ると思うんですが、当初の予定よりはかなり長引きました。
 ゾロの心情は敢えて今までちゃんと書いていなかったんですが、今回チラッと書いたら、もうひたすら泣けてしまって(おい)サンジの心情を重ねると更にグワッとなる!!
 自分で書いててここまで感情移入出来る話になったって言うのも、とても貴重で、やはり在り難いなーと思いつつ。
 いつも拍手ありがとうございます^^
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