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最大限度9

2012.04.23 08:06|Novels
「とにかく必要最低限以外の歩行の許可は出来ない。大人しく寝てて」
 いつもよりかなり強めの口調でチョッパーは、サンジにほとんど命令するよう突き付けた。
「俺のせいか? 俺が無茶したりしたから・・・」
 体を起こすことも許されずベッドに寝たままの状態でサンジはどこか憔悴しきった顔をチョッパーに向ける。
「そんなことない!!! あれは仕方なかったんでしょう・・・そうしなきゃサンジ自身だって危なかったんだ・・・」
 チョッパーが慌てて否定を示す。
 仕方が無かった。
 本当にそうだろうか?
 いくら敵の手から逃れるためとは言え、もっと他の手段があったのではないか?
 結局俺がどんなに頑張って逃げようとしたところで、あの場でゾロが来てくれなかったら体へのダメージはもっと深いものになっただろう。
 お腹の子がそれで大丈夫だったかなんて保障はどこにもない。
 次にいつまた同じようなことが起こるか分からない。
 きっと次に同じことが起こったら、今度こそ俺は腹の子を殺す結果になっちまうだろう。
 それを考えると仲間達の好意は嬉しいが、次の島が見えたら俺はそこで船を下りるべきなのかもしれない。
「ちなみに船を下りるのも許可出来ないからね。歩行すら禁止なんだ。サンジ1人でどうにか出来る問題じゃないんだよ」
 自分の考えていたことを完全に見透かしたよう、チョッパーが厳しい言葉で念を押す。 




 チョッパーがダイニングに顔を出すと、少し遅れたオヤツの時間が繰り広げられている最中だった。
 ホールごとケーキを呑み込もうとするルフィを止めるのに皆して必死になっている様子で、隣の医療室に今まで篭っていた重苦しい空気など一切持ち込まない、いつもの賑やかな空間が作られている。
 そのことにホッとして、チョッパーは漸く肩の力を抜くよう息を1つ吐き出した。
 何とかルフィからケーキを死守したらしいナミがカットしたものの1つを皿に乗せて、チョッパーに差し出してくる。
「デコレーションは私がやったんだけど、サンジ君お手製よ!」
 サンジのお手製だと聞いて、チョッパーは固さのあった顔を一気に緩ませた。
 フォークで突き、口に運ぶと甘く優しい味が広がって一時的に幸せな気分になる。
 甘いものは脳の疲れを緩和させてくれるので、精神的に疲れた今には最適なものだった。
 その間にもジッと自分に集ってくる視線に気付き、チョッパーは漸く自分の医者としての仕事を思い出す。
 気まずさを誤魔化すようにケーキを更にフォークで突きながら、チョッパーは口を開いた。
「えっと・・・サンジのことだけど、切迫流産っぽいんだ」
「えっ!!!!」
 皆の声が揃う。
「それって、もう駄目ってこと?」
「そう言うわけじゃないんだよ。完全に流産ってわけじゃなくて、流産になりかけてるってだけで・・・時期的に言えば切迫早産の方になるのかもしれないけど、とにかくそう言う危険があるってだけで、安静にしておけば妊娠状態はちゃんと続けられる」
 一同が一応胸を撫で下ろしたようだったが、その顔に笑みはない。
「だから、当分サンジは歩行禁止でまたベッド上で過ごしてもらうことになるけど、症状が軽快したり消失すれば徐々に安静状態も解除できる範囲だから・・・」
「で、サンジ君の様子はどうなの?」
 チョッパーは手に持っていたフォークを皿の上に置いた。
「うーん、サンジ今回のことで大分参ってるみたいなんだ。こう言う時一番良くないのが自分が悪かったんじゃないかって、自分自身をひたすら責めちゃうことなんだけど、やっぱりそんな感じで・・・どうしようもないと言うか・・・。あ、今はサンジ寝てるから大丈夫だと思うけど」
「サンジ君あれで子供が生まれてくるの楽しみにしてたみたいだし、やっぱりそんなサンジ君見てた分私達も自然と楽しみにしちゃってたのよね。今更駄目だったってなるのはやっぱり嫌だし、私達だって辛いわ。でも一番辛いのはやっぱりサンジ君自身なのよね・・・」
 シンと室内に沈黙が落ちた。
 今まで賑やかさに満ちていた空間が一気に重苦しくなる。
 サンジのために、この先の航海をどうにか安全なものにしなくてはならない。
 何かと無茶をしてしまうサンジを安心させるためにもと、島に上陸した際や航海時のトラブルやアクシデントはサンジに気付かれないよう、こっそり皆で始末していたのだ。
 それが今回ばかりは目が行き届かなかった。
 サンジを1人キッチンに残してしまったのが失敗だったのだ。
「私が付いていてあげるべきだったのよね・・・私のせいよ・・・」
 ポツリとナミが零す。
「だから、サンジにも言ったけど、誰のせいでもないんだよ!」
 チョッパーが怒ったように言った。
「そうよ、ナミ。あなたがそう言う考えだとサンジも悲しむわ」
 フォローを入れたのはロビンだ。
「サンジのお腹、この間俺、触らせてもらったんだ。結構動いてて元気良かった。サンジに似て足癖悪いんじゃねえか? だからきっと大丈夫だ」
 ニシシとルフィが笑った。
 その隙にチョッパーのケーキに手を伸ばそうとしているところをすかさずナミが叩き落とす。
「まあ、確かにサンジ君の子だったらちょっとやそっとのことじゃ大丈夫そうだけど・・・」
 ルフィの発言は何の根拠もないことが多かったが、それでもルフィの言葉はいつだって人の心を楽にさせてくれる。
 ルフィに便乗するように頷いたナミを切欠に場が一気に明るくなった。
 チョッパーもウンと嬉しそうに頷く。
「きっと大丈夫だよ。あ、でも今度また同じようなことがあったら大変だから。本当は船の揺れだってあまり良くないんだよ。でも今更島に留まるってなっても、あまりサンジを動かしたくないから、やっぱりこの船で生ませてあげるのが一番安全だと思う。だけど船は設備が揃ってないから、あまりに早産児だと対応が出来ないんだ。だから皆にも気を付けてサンジを見ていてほしいんだよ」
 念を押すチョッパーに誰もが頷いた。





 サンジが目を覚ました頃にナミが医療室を覗いてみればサンジはベッド上から嬉しそうに顔を綻ばせた。
 自分のことで精いっぱいのはずなのに、こう言う風に嬉しそうな顔を見せるところなど、男の時から変わらなくて、おべっかもやはりいつものように付いてきた。
 そんなサンジの態度に少し安心する。
 チョッパーが大分参っているようなことを言っていたから心配していたのだ。
 勿論これもサンジ君なりの強がりなのかもしれないと思う部分はあるものの、それでも少しでも笑っていてくれればこっちも気分が落ち着く。
「ナミさん・・・皆で敵の襲撃とか今まで俺に隠してたんですよね?」
 ひとしきりナミに宛てた賛辞を言い終わった頃、サンジがそう訊いてきた。
 ナミは困惑したが、サンジは慌てて付け足す。
「すいません・・・ナミさん達が話してる声聞こえてたんです・・・」
 穏やか過ぎる航海に不審を今まで抱かなかった自分を、サンジは不甲斐なく思った。
 俺に無茶させないよう、敵襲を悟らせないよう片付けるのはどれだけ大変なことだっただろう。
「ごめんね。何かあったらサンジ君、船を下りちゃうんじゃないかって思って・・・私達それは嫌だったのよ」
 その結果、逆に今回のような無茶を強いる羽目になってしまったのかもしれない。
「すいません、気を使わせてしまって」
 申し訳なさそうにまた謝ってくるサンジにナミは首を振った。
「そんなの仲間なんだもん。当然じゃない! それにね、私は特に何もしてないのよ。いつに無くゾロが張り切ってくれて、ほとんどあいつが1人で片付けたようなものなの・・・いつもは寝てばっかりのくせにね」
「ゾロが?」
 そう言えば俺のせいで負った傷は大丈夫だったのだろうか?
 肩の付近に鎌が刺さっていたように見えたが、肩でも、背中に近い位置だったら背中の傷と言う事になる。
 背中の傷は剣士の恥とまで言ってのけた男が敵に背を見せて俺を庇うような行動を取った。
 胸を震わすのはゾロに対する罪悪感なのか、嬉しさなのか、憤りなのか、よく分からない。
「それにね。やっぱり楽しみなのよ。サンジ君の子だって言うのは分かってるんだけど、皆自分の子みたいに、その子の顔を見るの楽しみにしてるの。サンジ君にやっぱり似てるのかしら?」
 うふふとナミは何を想像したのか、楽しそうに笑った。
 仲間達の気持ちが嬉しい。
 随分と気が楽になる。
 サンジは布団の中で、腹の内側からトントンと蹴りあげてくるような感触に手を寄せた。
 こんなに皆に思われてるお前は幸せものだな・・・。
 そう伝えたい気分をちょっとした焼きもちも込めて腹に触れた掌から念じてみる。




 ナミさんが医療室を出て行ってから仲間達が数分おきに顔を出した。
 仲間達の顔をほとんど見終わった後、最後にゾロがやって来た。
 どうせあいつは来ないだろうと思ったから、俺が顔を出すように伝えてくれとウソップに頼んでみたのだ。
 ウソップは怪訝そうな顔をしていたが、何も聞かずにいてくれた。それでいて、頼みごとはちゃんと果たしてくれる奴だ。
「傷大丈夫だったか? 悪かったな・・・俺のせいで」
 本当は体を起こしたかったのだが、今日はそれすらもチョッパーに禁止されていたので寝たままゾロの顔を下から見上げた。
 着物の隙間に白い包帯が見える。ちゃんとチョッパーに手当てしてもらったのなら安心だが、傷の程度はどうだったのかとか、背中に傷は負わなかっただろうかとか気になった。
 だが、敢えてそのことをゾロに直接問いただすようなことはしなかった。
「・・・ま、でも・・・その助かった・・・・・・おかげでこいつも何とかまだ生きてるみてえだし・・・・・・」
「ああ・・・」
 ゾロはベッド脇の椅子に腰を下ろしてくる。
 目線の位置が少しだけ近づいた。
 しかし、その後は完全に沈黙だ。
 大人しいゾロと言うのも気持ち悪いが、素直に礼なんて言ってる自分もゾロから見てみれば気持ち悪いのかもしれない。
「なあ、腹ん中のこいつ、俺に似てると思うか?」
 つい先程のナミさんとの会話を思い出して、ふと聞いてみる。
「さあな・・・テメエは似てほしいのか?」
「分かんねえ・・・」
 自分に似てほしいのか、相手に似てほしいのか。
 まあ、俺の場合相手に似てしまったら困るので、やっぱ自分に似ている方がいいのかもしれない。
 胎動を感じ始めてからは子供を宿してしまった事実はやたらと現実味を帯びてきていたが、それでもふとした瞬間に、これは自分の夢なのではないかと思うことがある。
 実感と言う実感が、消失したり、間近に迫ったりと交互に繰り返されているような感じだ。
「ゾロ・・・煙草吸いてえ・・・・・・」
 急にゾロに甘えてみたい気分になった。
 そんな自分は本当に気持ち悪いし、馬鹿らしい。
 だけど、流石にチョッパーに切迫流産だとか、早産だとか言われて精神的に堪えていたのもあった。
 弱ってる時ぐらい誰かに甘えたっていいだろう・・・。
 珍しくゾロが困ったような、呆れたような顔をしている。
「ここじゃ流石に匂い篭ってバレんだろう?」
 てっきりすっぱり駄目だと言われるもんだとばかり思えば、案外真面目にゾロは返してきた。
 なあ、何でテメエはあの時俺を、自分の背中を投げ出してまで庇ったんだ?
 どうして俺に敵襲を気付かせないよう率先してテメエが動いてくれたんだ?
 俺はこの腹の子はテメエの子じゃねえと言った。
 確かにゾロとは女の身である時に肉体関係があった。ゾロはあまり気にしてなさそうだったが、あいつが避妊していなかった事実も知っていた。
 だけど、やっぱこの腹の子はテメエの子じゃねえ。
 テメエの子であっちゃいけねえ。
 だから俺は何度も否定したのだ。
 なのに、テメエはそんな俺を怒るわけでもなく、軽蔑するわけでもなく、何も言わずに身を呈して守ってくれる。
 馬鹿だな・・・俺は確かに今は女の身だけど、本当は男なんだ。
 テメエに庇われるなんて軟な性格してねえんだ。
 なのによ・・・なあ、何でなんだ、ゾロ・・・。
 そう聞きたい言葉をグッと呑み込んだ。
「じゃあ、甲板でいい」
「アホか、テメエ歩行禁止だろうが!!」
 やっぱりチョッパーからの注意が皆にしっかりと行き渡っているらしかった。
「テメエはいつも寝てばっかいるから分かんねーだろうけどよ、これから先俺は当分寝て過ごさなきゃなんねーわけ。寝てばっかってのはストレス溜まんだよ。しかも身動きもとれねえし・・・だから・・・・・・」
 サンジはゾロに両手を伸ばした。
「今だけでいいんだ・・・頼むよ、ゾロ」
 ゾロは溜息を吐いた。
 チョッパーは念を押して何度もコックを動かすなと言っていた。
 だが、コックの言い分も分かるのだ。
 俺だってずっとベッド上に縛り付けられたら、気がおかしくなるだろう。
「責任は取らねえぞ」
 ゾロはサンジの体を抱き上げた。あまり揺れが伝わらないように一番無難に横抱きにする。
 首に腕を回せと指示するとサンジは言われた通りしっかりと腕を回してきた。
 コックの匂いが露骨に香る。胸を焼く甘ったるさは、ついさっきまでキッチンでケーキなんてものをこいつが作っていたからだろうか?
 他の奴等に見つかると煩いので、人目がないことを十分に確認して甲板上に出る。
 手摺りギリギリの位置に下ろして座らせてやれば、コックは吹き付けてくる海の風を浴びながらどこか嬉しそうにしていた。
「やっぱ外の方が気持ちいいよな。ベッド甲板に移してくれねえかな?」
「潮風は体に障んだろうが」
「そっか・・・」
 残念そうなサンジを横目にゾロはこの間サンジから預かった煙草を腹巻きの中から取り出し1本、火をつけた。
「テメエが吸ってんの、似合わねえな」
 笑みを向けてくるコックの姿が不自然だ。
 こいつなりに無理をしてるのが見え見えなのだ。
 抱き締めてやりたいとか、そんな咄嗟の衝動をゾロは呑み込んだ。
 やはり女の姿をしているコックを見ていると、どこか落ち着かない。
 線の細い横顔。
 少しだけ伸びた金髪。
 まだ具合が悪いのか蒼白い顔が、日の光を受けて少しだけ血色良くなった。
 煙草の煙を一口吸いこんで宙に吐き出し、ゾロはこの間と同じよう煙草を直ぐに握り潰す。
 座ったまま遠く海を眺めているコックの顎を持ち上げて唇を口に押し付ければ、俺の口内に残るヤニの名残に焦がれるようコックが舌を忍び込ませてきた。
 吸えない煙草の代わり。
 そんなキスをゾロと交わしながら、サンジはふと思う。
 こう言う関係を何て言うんだろうな?
 ゾロとは恋人じゃなかった。単に肉体関係があっただけだ。
 それも、俺が孕んだことで、無くなってしまった。
 だけど、単純に普通の仲間だと言い切るには、やっぱり誰よりもこいつは俺に近い。
 傍にいてほしい・・・そう思ってしまう自分らしくない弱さは、どこから湧き出るものなのだろう。
 腹の子がトンと俺の腹の内側をまた蹴った。
 今日はやけに動く。
 煙草の味が伝わって苦しいのか? それとも・・・・・・他の何かを、今一緒にいる存在に感じたのか?
 まさかな・・・。
 唇を放したところで、少々背後が騒々しくなってきた。
 どうやら俺が医療室にいないことがバレたらしい。数分と経っていないはずなのに、これでは今後、ひょいひょいと抜け出せそうにもない。
 ここにいるのを、見つかるのも時間の問題だろう。
「連れ出したのはテメエだから、テメエが怒られろよ?」
「は? そりゃ話が違うだろうが!!!」
 抗議の声をゾロが上げた瞬間、「あーーーー、いた!!!!」と目くじらを立てたチョッパーの怒鳴り声が甲板上に響いた。
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