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反転トワイライト7

2011.11.15 09:05|Novels
 どんな状況下にあっても意識を失うことなど出来なかった。
 いや、そうしてはならないと自分に必死に言い聞かせ、何とか意識を保っていた。
 いっそのことそれを手放してしまえたら、もっと楽だったかもしれない。
 だけど、楽な方に逃げてしまえば、その分の見極めが遅れる。
 一瞬たりとも俺は現在自分が置かれた状況を見逃してしまってはいけない。
 感覚が鋭敏になる薬剤と共に何か他のものまでも投与されたようだったが、その時には意識こそあったもののかなり朦朧としていて何を投与されたのかまでの把握は出来なかった。
 ただあまり体にいいものではないだろうと状況から見て分かったのと、投与直後直ぐに顕著な症状が出始めたので、何らかの毒薬なのだと判断した。
 激しい腹痛に吐き気。
 そのうち頭痛までもがし始め、何かを考えようとすれば頭がガンガンと激しく痛んだ。
 これだけでも気分は最悪だったのに、丁寧に折檻を続けてくれるもんだから、もうどこか痛いのか、熱いのか寒いのか、苦しいのか辛いのかと言った感覚までもが麻痺しちまって、俺は何が何だか分からない状態になってしまっていた。
 そんな中で必死に意識を繋ぎとめるよう、激しく痛む頭の隅でいろんな考え事をした。
 考えは酷い頭痛に遮られてうまく纏まりはしなかったが、それでも無でいるよりは幾分か楽な気がした。
 だけど、考えれば考えるほど、今度は胸の内側が痛くなってくる。
 不思議な感覚だと思った。
 どんなに体に苦痛を与えられても涙なんてものは出やしないのに、脳裏であいつのことを考えると表面上に与えられる苦痛や内側から体を崩される衝撃よりも、脳内に広がる激情の方が俺に大きなダメージを与えた。
 ああ、何かバカみてえだ・・・。
 留守番1つまともに出来ねえのかよ、俺は・・・・・・。
 最初に落ちたのは当然のような自嘲。
 いくら足に不調があったからと言っても一撃も入れることが出来ねえままなんて情けねえ・・・。
 そう思う反面、反射的にそうしてしまったのは自分の意思だったことを思い出し、余計に自嘲は強まる。
 しかも相手がゾロ狙いだって分かった時に何でか分かんねーけど庇っちまった。
 あいつはひたすらゾロの弱点を聞き出しにかかったが、弱点って言っても俺は本当にそんなもの知らねえ。
 知らないからこそ自白剤を使われたところで意味もなく、敢えて上げるなら迷子ってことぐらいだろうか?
 ああ、あと万年寝腐れてんな。
 酒に強いとか・・・ってこれは弱点じゃねえな。
 人の料理を食ってうまいの1つも言わねえとか・・・まあ、態度が冷たいんだよ、あいつは。
 それでいて案外優しい奴だってこととか、態度が冷たく見えるのは表に感情を出すのが苦手なんだってことも俺は知ってんだけどよ・・・って、ああ、違う違う違う。
 何考えてるんだろうな、俺は・・・。こんな時だって言うのに。
 感覚が敏感になる薬剤だか何だか知らねえが、俺は痛みには慣れてる。だけど、快楽の方はちっとやっぱり弱いのかもしれない。
 威勢がいいくせに快楽には弱い。あの日ゾロが俺に向けて言った言葉を噛み締める。
 確かに間違っていないのだ。
 ズキリと胸に痛みが走った。
 触れてくる手の感覚に敏感に反応して肌が粟立ち反応していく。
 粟立つ肌が鳥肌のそれにも似て、寒いと感じた。
 ああ、もう気分は最悪だ。気持ち悪い。
 懸命に吐き気を堪えることに必死になった。
 ここで嘔吐してしまえば、匂いやら視覚的なものやらでもっと気分が悪くなりそうなことは目に見えていた。
 しかし何とかこの気分の悪さを緩和出来る方法はないものだろうかと、何度も朦朧とする意識を奮い立たせながら、考えの纏まらない頭を自分なりにフル回転させた。
 そうこうしているうちに奴は電伝虫で映像を撮り始めた。
 ゲッ・・・と現在の自分の格好を思い出し苦い唾を飲み込んだのと共に背筋が完全に冷え切っていく。
 見せつけるように何度かボディを殴られたが、やはり顔だけは殴ってこなかった。
 案外俺のこの顔が気に入ったって口か・・・?
 この変態野郎が・・・と思う。
 だけど、こいつは・・・・・・。
 ああ、ゾロにもちょっと前に怒られたばっかなんだけどなぁ。これが甘いってことなんだろうか?
 映像はゾロに送りつけるつもりなんだろう。
 こんな姿見られちまうのも癪だけど・・・まあ、考えてみれば今更なのかもしんねえ。
 あいつには散々組み敷かれてきたんだ。羞恥に耐えられない格好だって何度か強いられたこともある。
 今更見っとも無い姿を見られたところで、どうってことないし、あいつはこう言うの見慣れてるだろうから何の感情も持たないだろう。
 だけど胸は更にズキズキと痛みを増した。
 こんな状況であるにも関わらず、呑気にもそれを「どうしてだろう?」と考えた。
 あいつは来るだろうか?
 こんな俺のことを助けに、自身の身柄と引き換えに?
 いや、と首を振る。
 ・・・と言っても首も、もう動きはしないのだが、感覚的にそう言う気分で少し顔に力を込めた。
 だが、転がされたベッド上にただ髪を散らしただけで、特にこれと言った動きにはならなかった。
 人助けなんて言うのはあいつには似合わない。
 それがどんなに自分に関わることであったとしても、たかだかちょっと俺が気を抜いて捕まってしまっただけの、奴に言わせれば多大なアホのやらかしたミスだ。
 そんな奴の尻拭いなんてことに走るような奴じゃない。
 来ないだろう。来ないでほしい・・・。
 もうこれ以上俺を惨めにさせないでほしい。
 それにあいつの背にも、もうこれ以上の荷物を背負わせてしまいたくない。
 人を斬る度にあいつが人を求めるのは、斬った人の命の分だけ心に空いてしまった穴を、その温もりで埋めたいのだろう。
 それを俺は埋めてやったつもりでいて、広げさせてしまったのかもしれない。
 結局俺が追い詰めてしまったのだろう。
 1つ前の町で俺を騙したあの女性も、こいつも、あいつも・・・・・・。
 それにしても、本当にバカみてえだ。
 何故そんなことをしたのかなんて、あいつと対等の位置に立ちたかったとか言う、ただそれだけの対立感情。
 手を伸ばせば、もしかしたら同じもんが見えるんじゃねえかな・・・とか、ちょっと期待した。
 だから、来るなと言った。
 その時の俺に持てる全身全霊の力を振り絞って声無き声で訴えた。
 人助けは趣味じゃねえんだろう・・・。
 例え仲間の1人が死ぬ結果になったとしても、それはゾロの大いなる野望にとって単なる通過点でしかないのだ。
 それにしてもと思う。
 別の奴に俺への拷問を任せるくせに、自分はそこを動かない。
 ジッと俺が耐える姿を見ている斧使いをふと見れば、その横顔の妙な線の細さに気が付いた。
「寂しいのか?」
 掠れてしまったが、そう問いかけた言葉は何とか音にだけはなった。
 斧使いは眉根を怪訝そうに寄せてサンジの顔を覗き込むように見てくる。
 体は滅茶苦茶にするくせに、顔には傷1つつけない。
 だが、そんな俺の顔を見る目は一層忌避するものを見るような嫌悪感が露骨に滲み出ている。
「そう言うの見てるとイライラするんでね・・・」
 斧使いの応えに、ああ、そうかとサンジは思った。
 こいつは少しゾロに似てるんだな。
 自分がよく分からないんだろう。
 まあ、俺も自分のことなんてよく分かりもしないんだが、それでいて人との接し方までもが分からないような気になって抑え込んでしまえば、そこで繋がりは閉ざされてしまう。
「人に当たって、それで気が晴れるのならそうすればいい。だけど、本当に気は晴れるのかい?」
 思い切り腹を蹴りつけられた。
 ただでさえとんでもない腹痛に耐えていたところだったので、それに上重ねされた、呼吸さえも一瞬失ってしまいそうな衝撃に意識は更に朦朧としてきた。
 だけど、それを飛ばすわけにはいかない。
 きっとここにゾロは来る。
「どこまでも甘いんだな、お前は」
「甘いとか甘くないとかそう言うんじゃない。俺は俺の思うままに行動しているだけだ。自分の意思を押さえつけることはもう止めた。そうすれば押さえつけた意思はどんどん歪んで別の意思を生み出して、そっちが本当のものになっちまう。その差にフラストレーションが溜まるから爆発する前に何かに対象を摩り替える・・・・・・」
 斧使いの髪を掻き上げる仕草が見えた。
 だらしなく伸ばされた髪は1つに丁寧に束ねればそれなりに綺麗に見えるんじゃないかと思う。
 がっちりとした体格であるのに、案外その指は細い。
 それをガチガチした悪趣味な装飾品で誤魔化しているようにも見える。
 ふと、笑えば怒りを更に煽るだろうことは分かったけど、それでも何故だか無性に笑いかけてあげたくなった。
 



 全速力で駆けぬけていた足音よりも、そのうちピチャピチャと水を踏む音の方が大きくなってきた。
 サンジを背負った状態で走っているからだろうか?
 やはりドンドン力が抜けてくる。
 これぐらいのことで情けないと自身の体力の無さを叱りつけるが、前に進もうとする意思に反して足が思うように動かなくなってきている。
 足が重いのではない。徐々に力が抜けてきているのだ。
 ピチャピチャからバシャバシャへと足元を這い始めた水を蹴る音が様相を変えたところで、チョッパーは漸く足場の悪さを不自然に思い始めた。
 いつの間にか足首のところまで水が来ている。
 この水どこから?
 気になって足を止めた瞬間に、今まで無理をして走り続けていた反動からか急に踏ん張る足に力が抜けた。
 ガクリとそのまま膝を地についてしまい、衝撃にサンジの体がチョッパーの背から転がり落ちてしまった。
 恐らくしがみ付く力すら無いのだろうと言うことは分かっていたし、意識があったようにも思えなかったから、少し態勢が崩れればサンジの体はいとも簡単に下に落っこちてしまう。
 そのことはしっかりと頭に入れて気を付けて走っていたところに、足元の水に意識を向けた瞬間、注意が飛散してしまったのだ。
「ああああああ、ご、ごめんっっ、サンジー!!!!!!」
 慌てて地面に転がったサンジの元へチョッパーは駆け寄る。
 随分と勢いがついていたので若干足場の悪い岩場をその体はゴロゴロと転がって力無く横たわった。
 チョッパーが今にも泣きだしそうな面持ちでサンジの顔を覗き込めば、意識は無いものだとばかり思っていたが若干は保てていたようで、うっすらと目を開けて首を振ってくる。
 ぎこちない動きでしかなかったので、やはりそれはサンジの金髪を微かに揺らしただけだったが、気にするなと言ったサンジの声はしっかりとチョッパーに届いた。
 地面に横たわっている状態では、足元を這い始めている水がサンジの顔の線を濡らしていく。
 水分を吸った髪がその存在を重たそうに沈め、濡れてない場所との色の差を強調させた。
「チョッパー・・・辛ぇんだろう?」
 掠れた声が次いで出る。
「え、いや・・・・・・大丈夫だ、これぐらい!!!」
 チョッパーは内心ギクリとしたが、それをサンジに気取られぬように慌てて首をブルブルと振った。
 しかし、本来嘘を吐くことが得意な方ではないので、それは分かりやすく肯定の証拠へと逆になってしまう。
 不安げな目を落とすことしか出来ないチョッパーに、ゆるりとサンジの手が伸びてきた。
 いつもの黒いスーツのジャケットは着ていない。
 シャツだけが気持ちの分だけ引っかけられた体は動きはしないだろうに、手だけに全身の力を集中させたかのよう、微かに震えながらもその手はチョッパーに確かに近づいてくる。
 本来は白い色のシャツなのだろうが、今は様々な色がこびりついていて本来の色がよく分からない。
 そのシャツの隙間から伸びた腕のあちこちに痣が残っている様子が酷く痛々しくて、思わずチョッパーは目を逸らしてしまいそうになったが懸命に堪えた。
 サンジの手がチョッパーの頬を撫でて、そのまま上に上りたそうにしていたのでチョッパーは姿勢を屈める。
 すると、ソッと頭に触れて来て、やっぱりその手は優しくチョッパーの額を撫でてくれた。
「これ・・・海水だよな・・・? 潮が満ち始めてるんだ・・・このままじゃ動けなくなる・・・・・・」
 撫でながらもその口が告げる現実にチョッパーは愕然とした。
「いつの間に・・・・・・」
 この洞窟は恐らく潮が満ちれば完全に海の中に沈んでしまう。
 洞窟の内壁に張り付いている貝や海藻の類には気付いていたのだ。だけど、即座にそのことに結びつかなかったのは、それだけ気が焦っていたからだ。
 なので、海水が地を這い始めたと言うことは、そう時間も残されていないはずだった。
 急ぎたいのは山々だったが、海水だと分かった瞬間に益々体に力が入らなくなっていく。
 こんなんじゃいけないと思うのに、悪魔の実の能力者の唯一不便な点が、どうしても弱点としてチョッパーの肩に重く伸し掛かってしまった。
 この実の能力に今まで助けられてきたし、この力があったからこそ麦わら海賊団に入れて、俺にも仲間が出来た。
 だけど、今はこの悪魔の実の呪いを酷く恨めしく思う。
 急がなければいけない。
 急くように焦りだけが出てくるのに、一度この洞窟に入ってきたからこそ分かっていることだが、やたらと入り組んだ洞窟内だ。
 外の潮の匂いを嗅げば脱出は容易いと思ったが、内部に海水の侵入が多く見られる以上、潮の匂いはあちこちに充満しており嗅ぎ分けることが難しくなってきていた。
 しかも、まだ出口までは距離がある。
 サンジを背負ったままで、力のドンドン抜けていくこの状況を切り抜けられるとは思えなかった。
 チョッパーが立ち尽くしているうちに、荒い息を吐きながらもサンジは壁際に這うようにして寄って、その岩場の壁に背を凭れかけさせた。
 背中に固い石の当たる感触は今のサンジにはやはり辛いらしく、背を凭れた瞬間に微かにその顔は歪んだのだが、直ぐにそんな色を霧消させてしまった。
 呼吸を強引に求めるよう大きく息を吸う素振り。
 その都度胸の辺りが多少大袈裟に上下し、確保した呼吸の中にゼーゼーと喘鳴のような音が交ざっている。
 顔色も薄暗い洞窟の中にいるからではなく、明らかに本来の色を失って、白いだけならまだしも、どことなく蒼いような黒いような色合いを持っていた。
 医者としての目で見なくても、サンジの容体が危険であることは容易く判断出来るだろう。
「チョッパー・・・お前先に行け・・・・・・」
「嫌だ!!!!!」
 何となくサンジが言うだろうことは予想出来た。
 その予想通りの言葉をやはり言ってくるサンジを思わず叱りつけたい気分になったが、今は必死になって首を振る。
「俺はゾロにサンジのこと頼まれたんだ。絶対に置いて行かない!!!」
 思わずと言った風にこんもりと眦に浮かび上がった涙が、チョッパーの目を更に大きく見せた。
 不思議とそれを見ていると優しい気持ちになれることにサンジは安堵した。
「いいか、チョッパー・・・・・・。仲間を助けたいって気持ちは分かる。もし俺がお前の立場だったら俺でも嫌だと言っただろう。だけど見極めを間違えちゃいけない・・・。まあ、お前は優しいから辛ぇんだろうけど・・・今ここで俺を背負ったまま走ればてめえも一緒に沈んじまう・・・。だけど俺を置いて行けば、てめえだけでも何とか洞窟の外に出られる。そうすりゃ仲間の助けを呼ぶことだって出来る。いいか・・・てめえにはまだ出来ることがあるんだ・・・・・・」
 静かに諭されるよう言い聞かされても、それでもチョッパーは首を振り続けた。
「てめえも大概聞き分けねえなぁ・・・・・・。まあ、それでこそ俺達の仲間なんだけどよ・・・・・・」
 サンジが呆れたような顔で笑った。

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