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反転トワイライト6

2011.11.14 18:25|Novels

「俺はお前らの要求通りここに来た。好きにしてくれていい。だが、そいつは約束通り放してもらおうか?」
「ダメだ、ゾロ・・・・・・」
 掠れた声が漸くコックの口から洩れる。
 あまりにも身動きがないので死んでいるようにも思えただけに、声だけでも聞けたことにゾロは密かに安堵したが、その声は酷く弱弱しい。
「お前は少し黙ってろ」
 そのことに気分を害したよう男は掴んでいたコックの髪を放した。
 自分の体を支えることも出来ないのかサンジの体はそのまま再び甲板上に沈んでしまう。
 そんな些細な衝撃にさえも耐えられないらしくサンジは痛みに耐えるよう身を縮みこませたが、男は容赦なくその頬に手を伸ばした。
 殴りつけるつもりなのだと思いゾロは腰の鞘に手をかけたが、反して男の手はパチリと軽くコックの頬に触れただけだった。
 しかし、何故かサンジはたったそれだけのことなのに、再び苦痛に顔を顰める。
 苦渋に潜められた特徴的な眉が何度か荒げた呼吸の振動を伝えるように上下した。
 体があちこち痛んでいるにしろ、明らかにコックの様子がおかしい。
「てめえ、そいつに何をした?」
 やはりあまり聞きたくないことのような気がした。恐らく楽しいことではない。
 楽しい状況でもないのは確かだが、それにしても胸やけするような重さと不快感がグルグルと体の内側で渦を巻く。
 ともすれば吐き気さえも伴いそうだった。
「君に贈った電伝虫に映っていた通りだよ。まあ、少しやりやすいように拷問用に使用されている薬剤を投与させてもらったからね・・・。感覚を過敏にさせる効果があって、殴られれば通常の倍痛みを感じるし、もちろん快楽も倍になる」
 今度は男の手が撫でるようにサンジの頬を這った。
 ただそれだけの刺激でも体に何らかの異常な感覚を伝えるのか、喉の奥で悲鳴を押し殺したような潰れかけた音が鳴った。
 どこまでも加虐趣味な行為。
 もし、それが単純に加虐性向なだけならまだ救いようもあるが、ゾロの脳裏をふと過ぎったのは性的サディズムにまで発展した可能性だ。
 さっき男は快楽も倍になると言った。
 それはこの男が、コックに対して散々に快楽を与え、狂わせた証拠ではないのだろうか?
 ゾワリと肌が粟立つ。沸々と腸が煮えくり返っていく。
 今すぐにでも男の首を斬り落としたい衝動は一層残虐的に募ったが、周囲を囲まれている状態ではゾロがそう行動に走った瞬間、狙われるのは必至だった。
 それに男の足下にはコックが転がっている。ゾロが行動に移せば、即座に男はコックを殺すだろう。
 薬剤を投与されているとあっては、少しの刺激ですら今のコックにとっては命取りになるだろうことは目に見えている。
 それにしても、相手の自由を奪い、その意思を完全に無視し、どこまでもその体を嬲る。
 何故俺1人を誘きだすだけのことにそこまでする必要があったのだろうか?
 人質としてこのコックを捕えたと言うのなら、人質は無事でいてこそ価値のあるものだ。
 しかし、男はその人質を露骨に傷つけ、甚振り、その行為自体を隠すのではなく見せびらかすようにひけらかしてくる。
「壊すのは容易いよ」
 気持ちの悪い声音で男が言った。
 日頃の鍛錬の賜物もあって仲間内では一番筋肉質なゾロだが、そのゾロよりもいい体格をしている男なだけにその声の異様な高さが気味悪く聞こえるのだ。
「どうしてそこまでする必要がある・・・」
 怒りを噛み砕くように、辛うじてそれだけを訊ねれば、男は肩までだらしなく伸びた髪を大袈裟にはらって下品な微笑を浮かべた。
「少しイライラしてたからね・・・発散したかったんだよ。それに楽しいだろう? 思い通りにならない相手を組み伏せるのは・・・。君もそうじゃないのかい?」

 
 楽しい?
 本当にそうなのだろうか?
 イライラしていた。確かに俺も・・・・・・。
 訳も分からずに。理由もなく。
 そんな中、俺の周りをやたらちょろちょろし始めた奴がいて、そいつを見ると余計に苛立った。
 苛立ちの原因など知る由もなかったが、ただ、俺とあいつは違いすぎて、その違いが気持ち悪いのだと思った。
 思い通りにならないことにむしゃくしゃした。
 どこまでも俺に反発しかしない奴の口を塞がせたいと思った。
 最初こそ行為に誘い、それとなく俺に手を伸ばしたのはあいつの方だったが、あいつがそうしてきた理由など全く分からなかったし、敢えて聞く必要もないと思った。
 何度かそうした行為を重ねていくうちに、もしかしたらそれはあいつの義務的なものだったのではないかと言う思考が生まれた。
 あいつはコックとしての本職がそうさせるのか、やたらと人の機微に聡いところがある。
 誰かが弱っていたり、ちょっとした苛立ちを感じていたりすると、それとなく気付いて、あいつは料理なり言葉なりでそれを緩和させる術を持つ。
 だが、俺相手にはそれがうまくいかなかったのだとしたら?
 もし俺にその術が通用しなかったと言うのなら、あいつは料理の代わりに自分自身を俺に差し出したのではないだろうか?
 クルー達に当たり前のように飯を食わせる行為と同じよう、もし俺にはその体を食わせていたのだとしたら?
 そう思う部分が幾つかあった。
 もしかして、俺はそのことに苛立っていたのではないだろうか?
 体だけ・・・それが嫌だったのか?
 俺は心まで欲しかったと言うのだろうか?
 そんな甘い考えを一瞬でも脳裏に存在させてしまった自分自身に反吐が出る。
 そんな自分を認めたくはないのだ。



「違う」
 反論したはずの言葉は、果たして本当に正確な意味合いを持っての発言だったのだろうか? とゾロに一種の疑問を抱かせた。
 あのコックが露骨な拒否を示してこなかったのをいいことに、俺はある意味で熾烈な行為をあいつに強いた。
 それでいてあいつの足を痛めさせておきながら・・・・・・。
 あいつが足が攣ったと痛がった時、それを無視して行為を進めたのは俺の方だったではないか。
 もし、足がいつものように動かせたら、このコックはこんなヘマをやらかすようなこともなかっただろうし、自力で逃げ出すことも出来たかもしれない。
 この男がコックにやったことと、俺がコックにやったこと。
 よくよく考えてみれば、一体何が違うと言うのだろうか?
 程度の差はあれ、嗜虐的な行為に及んでしまったのは自分も同じなのだ。
 そんなゾロの中の葛藤を読み取ったかのように、男は口の端を上げておきながら鼻で笑った。
 挑戦的な眼差しが何もかもを見透かしたよう細められる。
「君がこいつを見殺しにして、こっちの仲間に入ると言うのなら歓迎しよう」
 勧誘を示して伸ばされた手のウザったいほどの装飾品がジャラリと不快な音を鳴らした。
 人を買う金持ちに似た耳障りな音だ。
「それじゃあ約束が違うだろう・・・。そいつをてめえ等が殺った瞬間、俺はここにいる全員を惨殺する」
 今度こそ迷わず剣に手をかけた。
 ゾロの目がギラギラと血に飢えた獣のような色で再び男を射る。
 無意味な咆哮さえもあげたい気分だったが、そうしなかったのは声の振動ですら甲板上、男の足元に転がったままのコックにダメージを与えてしまうのではないかと言う懸念が走ったからだ。
「交渉決裂かな? それとも本来の予定通り、こいつを解放して君は海軍に突き出されるかい?」
 男は虚虚実実の駆け引きをしているつもりなのかもしれないが、ゾロにとってそんなものは必要ない。
 自分の信念のままに斬る。心が感じるままに動く。
 虚飾に満ちた人生など自分にとっては何の意味もないものだ。
 例え志半ばに途絶えたのだとしても、どこかで自分を偽り、信念を折り曲げれば、その瞬間足元から崩れていくものを本能が知っている。
「元からその約束のはずだ」
 ゾロの返答に男は高らかに笑った。
「やっぱり君も甘いね・・・・・・こいつと同じだ・・・・・・」
 今度は容赦なく足元に転がるコックの腹を男は蹴り上げた。
 細い体がゴロリとまた転がって僅かにゾロに近づく。
 まだ距離は遠い。だが、転がった拍子にゾロの方を向いた顔は今はっきりとゾロを見上げた。
 ぼんやりと瞼が持ち上がる。
 虚ろな目が移す虚無感。
 ゾロを見てくる目のそれに一瞬ゾロはたじろいだ。
 その目に俺はどんな風に映っているのだろうか?
 さぞかし憎いだろう。もしかしたら顔すらも見たくないのではないだろうか?
 プライドの高いお前をこんな目に合わせた原因を作ったのは他の誰でもない俺だ。
 自業自得だとコック自身に突き付けたい気持ちも無いわけでは無い。
 だが、女に騙されて海軍に突き出されそうになったコックと同じよう、今回のことは自身の過失であると認めないほどゾロの精神は惰弱してもいない。
「そう言うことなら刀をまず捨ててもらおうか?」
 ゾロの意思が変わらないことを悟って男は諦めた口調で告げた。
「そいつの解放の方が先だ・・・・・・」
 ゾロは再度コックの解放を投げかけたが、男は全く応じる気がないようだ。
 今度はコックの手を容赦無く踏みつけて見せた。
 あれだけ傷つけないようにとコック自身が料理人として大切にしていた手だ。
 グリグリと躙る度に悲鳴こそ上がらないものの、衝撃に痙攣するようコックの体が跳ねた。
 あるいは手を傷つけられたことによる怒りがコックの体を震わせているのかもしれない。
 これ以上あのコックにダメージを与えられたら、本当に死んでしまうだろう。
 明らかな衰弱と、使用された薬剤による露骨すぎる効果は、少しずつではなく、急速な勢いでコックの体力を奪い続け確実に死への扉へと誘っている。
 薬剤の作用がどれぐらいで抜けるのかとか、どう言う類のものに値するのかはゾロには判断出来ない。
 しかし、毒薬である可能性もあれば、麻薬に近いものである危惧も抱かなければいけないのは分かる。
 ここは穏便に抑えて、少しでも早くコックをチョッパーに引き渡さなければならない。
 あまり駆け引きは得意ではない。相手が知略に長けた相手なら尚更、言葉巧みに相手を陥れるだけの術をゾロは持ち合わせていないのだ。
 本当に自分は斬ることしか出来ないのだと今更のように思う。
「分かった」
 頷いてゾロは剣を3本とも腰から取った。
 それを勢いをつけて投げ捨てようとすれば、一度閉じたはずのコックの目がそこで何を思ったのかもう一度押し開かれた。目を開くだけでも億劫なのだと分かるほど、その眦に刻まれた幾筋もの疲労の証と瞼の下のどす黒い青が白い肌の上で強調されている。
 しかし、強い眼差しだった。
 先程までそこにあった空虚なものなどではなく、今度は確実にコック自身の意思を映し出した。
「ダメだ・・・ゾロ・・・・・・」
 掠れた声が制止を投げる。
 ゾロがここに顔を見せた時にも、コックが口にしたものと何ら変わらない。
 電伝虫の映像上でもコックが必死になって訴えかけていた「来るな」と言った言葉は、結局ここに来てまでもゾロの行動を肯定するものではなく、全くの否定の形でしか存在しない。
 そんなコックにまたしても激しい苛立ちを感じた。
 てめえはもう大人しくしていればいい。
 こんな状況に堕とされてまでも、俺自身に反発の言葉を投げる必要などどこにもないはずだ。
 あるいは俺の行動全てが気に入らないと言うのなら、どうして痛い目を見てまでも俺を受け入れた? 体を許した?
 言葉では反発するくせにお前は何故俺を見る?
 てめえが俺の言葉を聞かないなら、俺もお前の言葉を聞く必要などない。
 ゾロはサンジの意思に反発するよう剣を今度こそ投げ捨てた。
 剣士として命の次に大事なものであることに変わりはなかったが、それでも構わないと思うほどに激しく苛立っていた。
 何より仲間の命がかかっている場面とあれば少々事情も変わってくる。
 何かを犠牲にしてまでこれに固執し続けることは、クイナにとっても自身の夢にとっても酷い裏切りであるような気がしたのだ。
 しかし、その瞬間だった。
 放り投げた剣が船の欄干を軽々越えて真下の海に落下しようとしたところで、今の今まで身動き1つ出来ず、少し肌に触れられるだけでも辛そうにしていたサンジが急に弾かれたよう起き上がって凄まじい速さで地を蹴った。
 一瞬の油断だった。
 まさか、今にも死にそうな面持ちで床に転がっていたサンジの突然の機敏な動きに、ゾロも、サンジの手を踏みつけていた男も直ぐには反応出来ない。
 何か光のようなものが視界を過ぎったと感じた時には、サンジは船の欄干に思い切り手をついて反動をつけ、躊躇いもせず真下に落下していく剣の下に自らの体を滑り込ませたところだった。
 サンジの手が空中で伸びてゾロの剣を三本共その身に受け抱える。
 しかし、流石に着地の態勢は整っていないようで、そのまま海に落下するかと思われたサンジの体の下に何か滑り込むものがあった。
「チョッパー!!!!!」
 場所は悪くない。
 敢えて剣を投げた方角にはチョッパーを潜ませていた。
 しかし投げたところは洞窟内の中央に溜まった海水の真上・・・つまりは海であることに変わりはない。
 悪魔の実の能力者であるチョッパーが一度海に落ちた剣を回収することは難しい。
 しかし、その3本共をサンジが見事に受け止めたので、チョッパーはゾロの声にすかさず反応してサンジの体をそのトナカイの身で受け止めたのだ。
 トナカイの姿であれば身軽さにおいては、他に敵うものはいない。
「そいつを連れていけ!!!」
 叫んだゾロの声にチョッパーは一瞬躊躇った素振りを見せたが、背中で受け止めたサンジの呼吸が酷く浅いことを感じると、頷いてそのまま全速力で駆け出した。
「サンジ・・・サンジ!!!」
 背中の存在に呼びかけてみるが返答がない。
 船の上でのゾロと誘拐犯とのやり取りをチョッパーは一部始終遠目からとは言え、岩陰から見ていた。
 だが、どう見てもサンジは動けるような状態には見えなかった。
 それが、ゾロが剣を投げたその一瞬に反応して、その剣を守るように飛び出した刹那の時をチョッパーはしっかりとその目で見た。
 サンジは笑っていたように見えた。
 背中でカチャカチャと剣の鞘がぶつかって鳴る。
 どう見ても背負ったサンジには意識が無さそうに見えるのに、その腕に抱え込まれた剣がチョッパーの駆ける速さの中に在っても下に落ちるようなことはなかった。
 サンジのことも心配だが、ゾロは大丈夫だろうかと言う不安が過ぎる。
 ゾロの武器である剣は今ここにあるのだ。・・・となればゾロは完全に丸腰の状態だ。
 加えて敵に囲まれた状態であったことを思い出せば、とてもじゃないが無事でいられるとは思えなかった。
 直ぐに助けに戻りたい気持ちは山々だったが、医者だからと言ってゾロにくっついて来た自分だからこそサンジの身を助けることを優先させなくてはいけない。
 チョッパーの駆ける足にじんわりと地面を這い始めた水が張り付いた。
 微かに力が抜けるが、何故・・・と考える余裕までもはなかった。

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