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ストーキング ユア セルフ

2014.11.11 20:14|Novels
海賊設定/ゾロサン/微妙にR18


俺ストーカーされてるかもしんねぇ……。
ある日、サンジがそんなことを言い出した。
てなわけで、サンジのボディガードすることになったよっほーい、なゾロが、絶対にコックは俺が守る! 的な勢いで全力で迷子になる話です。
ゾロ誕ですよー。
---------------------

ストーキング ユア セルフ


「俺、ストーカーされてるかもしんねぇ……」

 仲間達全員が集まった場でサンジはポツリとそう零した。
 現在麦わらの一味は、とある島に長期滞在している。トラブルが起こったわけではなく、単にログが溜まるまで1か月かかる島に足を踏み入れてしまったというだけだ。
 ログが溜まるまでの間、船は浅瀬に隠し、仲間達は全員街に下りている。
 財務大臣ナミの一声で各々、この1か月を有効活用した金稼ぎを命じられているからだ。
 長旅暮らしの海賊稼業。金はあるに越したことはない。
 そして今日は週に1度設けられた、仲間達集合の日なのである。
 その近況報告の場で、サンジは何を報告しようかと迷った末に、冒頭の一言を吐き出したのだった。
「それ本当なの?」
 ナミが疑わしげにサンジを見る。
「最初は自意識過剰なのかとも思ったんだけどよ。常に視線を感じるんだ。もしかしたら、俺に惚れちまったレディが熱烈な視線を送ってる可能性もあるかもしれねえが・・・・・・」
「ああ、そりゃねえだろう」
「何だとクソマリモ! どうしてテメエにそんなことが分かるんだよ」
「はいはい、2人共喧嘩しないの」
 口調こそ穏やかに諭しながらも、ナミはシレッとした顔で2人の頭に拳骨を落とした。
「まあね~、サンジ君って黙ってればモテるのかもしれないけど、黙ってないからモテないわけで、その可能性は限りなく低いとは思うけど」
「ナミさん、さり気に酷い」
 その言い方では結局モテないと言っているようなものだ。
 分かりやすくサンジは肩を落とした。
 確かにストーカーと言えば、可愛いレディにつくもので、男につくストーカーなど無きに等しい。
 そりゃ世の中には同性愛思考を持つホモ的な何とやらもいるわけだが、俺は男に好かれることをした覚えなどない。
 だが、確かに視線を感じるのだ。
 そうなると、俺に女の子のストーカーが付いていると考える方が自然だ。
 それに、わざわざサンジがこの場でそのことを口にしたのは、海軍関連を疑ったのもある。他の仲間達も俺と同じような視線を感じていれば、その可能性が高いだろうと思ったが、自分以外の仲間達には皆心当たりがないようだった。
「まあ、一応皆注意しておくこと。サンジ君も少し様子を見てみて、何かありそうだったらまた連絡するように」
「は~い、ナミさん、分かりました」
 サンジの元気良い返事で、その日の集まりはお開きになった。



 顔と名前の売れ始めてきた麦わらの一味が1か所に集まっていれば、やたらと目立って仕方ない。不要なトラブルを防ぐために、週1の頻度で開かれる集まりの後、サンジは直ぐに身を置いているレストランに戻った。
 ログが溜まるまでの1か月間で金稼ぎ出来る方法と言えば、コックであるサンジは慣れた飲食店で働くのが一番早い。
 幸い働き口は直ぐに見つかり、住まいもそこのオーナーの伝手で提供してもらった。丁度書き入れ時らしく、店は猫の手も借りたいほどに忙しかったらしい。
 なので、コック業に長く従事して経験もあるサンジは即戦力として重宝されたわけだ。
 ストーカーのことは気になるが、急に襲われても、サンジは腕に覚えがある。
 もし、ナミさんやロビンちゃんも、俺と同じような視線を感じているのなら由々しき事態だが、被害にあっているのは今のところ俺1人だ。
 海軍関係者であれば、真っ先に顔の割れている仲間を狙うだろう。だが、手配書も下手な落書きで済まされ、顔が知られていないサンジだけに付き纏う視線とあれば、相手がその手の者である可能性は低い。
 そうなると、正真正銘のストーカーか? と言う結論になるわけだ。だが、仲間達にはああ言ったものの、それが純粋に俺に恋したレディのものと考えるには少々不自然な点も多い。
 さっさとコックコートに着替えて厨房に入る。今日は1日休みを貰っていたが、店の前はものすごい行列になっていた。
 サンジの顔を見ると、コック達は皆、安堵の表情を見せる。
「助かりました、サンジさん」
「もう俺死にそうです、サンジさん」
「喉がカラカラで干からびそうです、サンジさん」
 口々に飛び交う訴えを耳に、サンジは1人1人コック連中の尻を叩いて回った。
「泣き言を口にする前に手を動かせ。ここを乗り切ったら俺が美味い賄いを作ってやる」
 サンジのその一言でコック連中はドッと湧き上がった。
「サンジさんの賄いが食えるなら、俺もう少し頑張りますよ」
 1人が上げた声に皆一斉に頷き、熱気の篭った厨房には途端覇気が戻った。
 サンジも溜まりに溜まったオーダーの消化に取り掛かろうと思ったが、フロアの手が足りていないようだ。フロア内を走り回って息を切らしたウエイターがサンジに縋り付くような視線を寄せてきた。
「どんなに忙しくても、フロアは走るなよ」
 軽い注意を落としながら、疲れ果ててぐったりしているウエイターの頭にポンと手を置き撫でてやる。
 まだ若い見習いの髪は汗で濡れていた。

 フロアに出たところで、またいつもの視線を感じた。
 サンジは給仕をしながら視線の出所を探ったが、ここだと思って顔を向けた場所には誰もいない。そして、今の今までそこにあったはずの視線は忽然と消えてしまうのだ。
 そんなことを何度も繰り返しながら、何とか昼のピークを終えた。客の中に俺のことをずっと見ていた奴がいる。
 そう思いサンジは会計時に客の顔を注意して見ていたのだが、怪しい奴はいなかった。
 ここまで露骨に視線を感じさせておきながら、その姿が見えないと言うのは、やはり可笑しい。
 ただのストーカーではない。
 薄々サンジはそう感じ始めていた。
 視線を感じるのは最近ではほぼ毎日だ。
 もし客の中にストーカーがいれば、連日顔を見せている客に焦点を絞ればいいだけである。
 だが、そんな客はいない。2日や3日連続して顔を見せる客はいても、1週間に渡って毎日顔を出す客は1人もいなかった。
 こうなると、レストランの従業員の中にストーカーがいる可能性も出てくる。
 しかし、従業員は全員男なのだ。女っ気がないのはバラティエも同じだったので今更のことだが、自分のことをストーカーしているのが男となると、テンションは下がる。
「まだ、海軍のスパイが紛れ込んでいるって考えた方が気持ち的には楽だよな・・・・・・」
 それ以外の理由で俺に熱い眼差しを毎日送りつけてくる野郎の目的を深く考えたくはない。


 店が落ち着いたので約束通りサンジは腕によりをかけて賄いを作ってやった。
 アイドルタイムのうちに仕込みや補充を分担してやり、順番に昼休憩に入る。
 お世辞にも可愛いとは言えない、いかつい体格のコック連中は我先にとサンジの賄い料理に群がった。
 むさくるしい騒々しさが何だか懐かしい。
 バラティエにいた時も常にこんな感じだった。
 サンジがこのレストランに厄介になるようになって3週間が経っている。この店の従業員の顔はほとんど覚えてしまった。
 だが、どいつが怪しいかは流石に分からない。新参者のサンジのことを快く思っていない奴も中にはいるだろうが、今のところ露骨な嫌がらせを受けたこともない。
 結局休みの日だったにも関わらず、サンジはそのまま閉店まで店の手伝いをすることになってしまった。
 沢山の客が訪れ、従業員も入れ替わり立ち替わりしたが、ストーカーじみた視線を感じることはなかった。


 店の裏手は街灯がなく、閉店作業を終えてサンジが帰る頃には辺りは闇に包まれている。
 いかにも変質者が好みそうな路地裏をサンジは急いだ。
 またいつもの視線を感じたのだ。だが、サンジが振り向いても、そこには誰の姿もない。おまけに人の気配すら全く感じられないのだ。
 しかし、気のせいかと再び足を進めれば、また視線が纏わりついてくる。
 これが幽霊の類でないのなら、相手は只者ではないだろう。
 夜も遅い時間帯とは言え、表の通りにはまだ人通りがある。酔っ払って陽気な親父や、露出の多い艶やかな衣装を纏ったレディ達の姿がそこらかしこにあった。
 なので、サンジは人目を避けるように、わざと暗がりを歩いた。
 人物の特定がまだ出来ていない。人前で騒ぎを起こせば、俺のせいで仲間達の素性が割れてしまうこともある。
 極力厄介ごとは避けたい。
 サンジは相手を振り切ろうと、全速力で駆けた。
 そして、急いで借りている部屋に飛び込む。
 室内に入ってしまえば、相手も追って来ないだろう。
 人物の特定を優先させるべきだったのかもしれないが、相手の気配が掴めない以上、自分より腕の立つ相手である場合もある。
 念には念を押して用心しておくべきだ。
 明日ナミさんに連絡を入れて、他の仲間達にも注意を促しておこう。
 近付いてくる足音がないか確認した上で、サンジは鍵をかけた。今まで視線こそ感じていたものの、後を追いかけて来られたのは初めてだった。
 流石に鼓動が急いている。気配の読めない相手の正体を探ろうと、気を張っていたせいでドッと疲れが噴き出してきた。
 今日は風呂に入って、もうさっさと寝てしまおう。
 サンジは灯りを付けようと壁を探った。
 その時、何者かの手が行き成りサンジに伸びてきた。気配も何も感じなかった。
 体を壁に押し付けられる。
 お前誰だ!
 そう叫びたかったのに、真っ先に口を塞がれたせいで声は出なかった。
 室内に人の気配は無かった。それに、視線は俺の背後にあったはずである。
 まさか複数人、ストーカーがいたと言うことだろうか?
 顔を見ようにも、やはり相手は相当な手練れのようで体は全く動かなかった。首を巡らせることも出来ない。
 視界は塞がれていないが、目の前にあるのは壁だ。灯りもついていない室内では相手の特徴を捉えることも不可能だ。
 どうにかしてこの場を切り抜けなければ。
 幸か不幸か相手に殺気といったものは見えない。
 海軍であれば、賞金首である俺に遠慮はしないだろう。逃げられる心配のないように、足を負傷させるなり何なりするはずだ。
 だが、そうしてこないと言うことは、正真正銘のストーカーである確率が格段とアップしたわけだ。
 男か、女か。
 まさかレディに押さえ込まれているとは思いたくない。反面、相手が男であった場合、それがどう言うことを意味するのかなど、考えたくはなかった。
 その時、サンジは自分の尻の上を何かが這い回るのを感じた。
 一瞬で肌が粟立ち、ゾワゾワと寒気が上ってくる。
 恐らくそれは人の手だ。形でも確かめるように何度も尻の上を往復していく慣れない感触にサンジは硬直した。
 女性が痴漢に合った時、助けを求めようにも恐怖のあまり体が硬直して抵抗出来ないことがあると言うが、まさに今、サンジはその状態だった。
 相手の力が強いのもある。口だって塞がれていた。
 だから、どうしようもない。
 そのうち手はサンジの着ているシャツのボタンを外し、その隙間から直接肌に触れてきた。
 ゴツゴツした感触が肌を這う。
 レディの手だったらもっと細く滑らかであるはずだ。
 やはり相手は男……。
 耳に吐息が掠めた瞬間、サンジは我に返った。
 このまま大人しくやられてしまうわけにはいかない。何とか相手の隙をつけないものかと、頭をフル回転させて考える。
 暑くもないのに汗がブワリと噴き出した。
 手がサンジの首に絡まったのだ。喉仏を軽く押される。
 やけに喉が渇いた。
 喉を潰されるのではないかと危惧した瞬間、今度は尻の肉を掴みあげられる。手はそのままサンジの尻を左右に割り、現れた中央の窪みを押した。
 思わずサンジはビクリと背中を唸らせた。口を塞がれていなかったら、変な声が上がったかもしれない。
 何せそこは自分で触れて慰めることの出来る男の根源とは違い、ほとんど自分では触ることのない場所だ。
 昔バラティエのコック連中に興味も無いのに教えられた、男同士のやり方と言う衝撃的な方法が頭の中をグルグルと回った。
 確か男同士でやる場合、男の肝心なモノを尻の穴に突っ込むのだ。
 本来モノを入れる場所ではない器官を無理やりこじ開けて捻り込む。尻を使うと言うだけで吐き気さえ催す行為の手順を生々しく思い出す。
 サンジは蒼褪めて呻き、渾身の力を込めて暴れてみたが、やはり相手はビクともしない。
 これほど力の差がある相手に押さえ込まれていることに、屈辱を感じる。何故自分がこんな目に合わないといけないのだろうか?
 何も覚えがないからこそ、サンジは混乱する一方だった。
 何度も尻の窪みを押していた指が離れ、バックルにかかる。同時に何かが首筋に吸い付いてきた。
 喉の奥で悲鳴が絡まる。
 やめろ!
 声にならない声でサンジは叫んだ。
 その時、玄関のドアが行き成り吹き飛んだ。
 正確には吹き飛んだのではなく、斬られて真っ二つに割れたと言った方が正しいのだが、サンジにはそんな細かいところまで見ている余裕が無かった。
「テメエ何やってやがる!」
 獣の咆哮のような声が響き渡った瞬間、サンジを抑え込んでいた腕の力がふと緩んだ。
 サンジは咄嗟に足を蹴りあげたが、力も強いなら逃げ足も速い奴だったようで、空振りに終わる。
 見知った顔が室内に入り込んで来た時には、もうストーカーの姿は忽然と消えてしまっていた。
 サンジは脱力してその場に座り込み、呆然とドアを壊した人物を見上げた。
 ドアが役目を果たさなくなったので、外気が露骨に入り込んでくる。月明かりがある分、室内よりも外の方が幾分か明るく感じられた。
 そのために、壊れたドアのところに立つ人物の姿をサンジははっきりと捉えることができた。
「ゾロ?」
 そこには、緑髪の男が立っている。相当焦ったのか肩で息をしていて、その手には3本の刀を持っていた。
 流行の最先端を行き過ぎているダサい腹巻き姿を見て、サンジはホッとした。
「何でテメエがここにいるんだよ」
「ナミに頼まれた。テメエを見張ってろと」
「そりゃいつの話だ?」
「今日の午前中に」
「今はもう夜だ。今まで何してたんだよ」
「テメエの働いてるレストランの場所が移動してた」
「してねえ!」
 どうやらいつもの迷子らしい。
 ドッと疲れが出た。一先ずドアを直してさっさと風呂に入りたい。
 サンジはよろよろと立ち上がった。
「何かされたのか?」
 ゾロの視線が不躾に降りかかる。
 ずっと誰のものか分からない視線に悩まされていたからこそ、仲間であるゾロの視線すら気持ち悪く感じた。
「何もされてねえよ。見んなよ……」
 サンジは慌てて乱されたシャツの前を合わせた。力任せに外されたボタンは幾つか存在が見えない。
「着てろ」
 何かをゾロに投げられた。
 サンジの頭に命中したそれは、ゾロの衣服だった。
「別に何もされてねぇって言ってんだろう」
 わざわざ自分の着ていた服を脱いでまで、俺に服を貸そうとするなど、ゾロらしくない気遣いだと思った。
「首筋に痕ついてんだろうが」
 服を返そうとすれば、ゾロの機嫌悪そうな顔がサンジに向く。
 カッとなった。あまりの恥ずかしさから、慌ててサンジはゾロの服を頭から被って袖を通す。
 ゾロの匂いが露骨に残っているシャツは、まだ温かかった。
 いつの間にかゾロは部屋の中に入りこんでいて、灯りもつけられている。窓が開けっ放しになっていたので、さっきのストーカーは恐らくそこから侵入して、逃げていったのだろう。
「お前のシャツ、臭いし、デケェし……」
 今あるこの空気が嫌で、いつものように喧嘩を売るような言葉を投げてみたが、ゾロはサンジを一瞥して、変な顔をしただけだった。
 直ぐにそっぽを向いたゾロの耳が妙に赤い気がした。



   ***

 直ぐにナミさんに状況報告をしたら、ゾロはそのまま俺のボディガードをしろと言う命が下った。
 ナミさん曰く、他の仲間達はちゃんとそれぞれの特技を生かして金稼ぎをしているのだが、ゾロは海賊になるまで海賊狩りをして生計を立てていた身だ。普通の職になどつけるはずもなく、片っ端から賞金首を叩き切って噂になりかけていたらしい。
 海賊が目立ってどうすんのよ! とナミさんの拳骨をくらい、かくして、ゾロは俺のボディガードと言う職を得たのだった。
 野放しにしておけないゾロを俺に押し付けることで、厄介ごとを回避したのだろう。ナミさんらしい機転である。
 だが、いつものようにナミさんは流石だな~と、褒め称える気は全く起きなかった。
 ボディガードと言うのは常に守るべき者の傍にいて、相手を護衛することだ。結果として、狭い部屋でサンジはゾロと暫くの間、一緒に住むことになってしまったのである。
 宿代もかからないし、ストーカー防止にもなるし、一石二鳥でしょう。
 電伝虫ごしに聞こえてきたナミの声に、サンジは項垂れながらも、「はい」と頷くしかなかった。

「おい、飯」

 ボディガードのくせに偉そうなゾロの声に殺気立ちながら、サンジは茶碗に白飯を盛りつけた。
 飯を食っていないと言うので、気まずさを誤魔化すために何か食いたいものはないかと声をかけたら、「白米」と返ってきたのだ。
 まさか深夜に差し掛かり始めている時間から飯を炊くことになるとは思わなかった。断ろうかとも思ったが、冷静さを取り戻したつもりでも、どこかでまだ気が動転していたらしい。
 いつものように文句を口にする元気が出て来ず、料理で気を紛らわせることが出来るのなら、それでいい気もした。
 サンジは普段からあまり酒を飲む方ではなく、仕事があれば余計にそんなものは口にしない。朝まで酒が残ると、仕事に支障が出るからだ。
 なので、酒のストックなどあるはずもない。
 船にいる時は毎日晩酌していたゾロだからこそ、酒がないのでは物足りないだろうとも思ったが、流石に買いに出る気にはならなかった。
 なので、せめて腹だけは満たしてやろうと思ったのだ。そういやゾロは海獣の肉も好きだったよな……と思い出し、丁度仕事先で分けてもらった肉をサンジは切り分けた。
 ゾロは何も言わずに黙々とサンジの料理を口にしている。
 ゾロのやつ、今回のことをどう思っているんだろうか?
 男のくせに、ストーカーに付け狙われた挙句、襲われた俺のことを、情けない奴だとでも思っているに違いない。しかも、ストーカーは恐らく男だ。
 ゾロがそのことを何も口出ししてこないことが、余計に気にかかった。
 そして、考えれば考えるだけ気分が落ち込んでくる。
 一通り料理を終えて、ゾロの向かいの席に腰を下ろしたはいいが、会話は無いし、食欲もあんなことがあった後では湧いてこない。
「悪ぃ、俺、明日も早いし先に寝るわ」
 結局料理には手をつけずじまいのまま、サンジはさっさと寝てしまうことにした。
 ゾロは何も言わず、視線を投げて寄越しただけだった。
 ベッドに潜り込めば、直ぐに睡魔はやってきた。
 1日中、気を張っていたせいか、妙に疲れていた。



   ***

 尻を触られて、シャツを乱されて。
 知らない男の手がサンジの肌を這う。
 肌を弄るゴツゴツとした感触に鳥肌が立つのに、塞がれた口が勝手に欲情を孕んだ声を落とそうとする。
 ああ、よく、こう言う光景、官能小説とかにあるよな……ストーカーに無理矢理やられちまって、嫌なのに、体は疼いて。興奮しきって、そんな自分に罪悪感を抱きつつ、心が性欲に縛られていっちまう。
 まさに、それなんだろうか……いや、そんなはずはない。
 男に触られて興奮するなんて流石にないだろう。
 なのに、体の力が抜ける。膝が震えて、今にも崩れ落ちそうだ。
 噛みつかれた場所がジンジンと不可解な熱を持った。
 
 ハッとして目が覚めた。
 自分の呼吸の荒さに驚く。
 熱いと感じるのに、体は妙に冷え切っている。何故だ? と思えば、全身に酷く汗を掻いていた。
 真っ暗闇で、直ぐには目が馴染まず、室内の光景がよく分からない。自分の汗の匂いを感じないかわりに、何だか嗅ぎ慣れない匂いを捉えた。
 思わず体が硬直したのは、ストーカーのことを思い出したからだ。
 何をされたわけでもないのに、たかがあれだけのことを怖いと思うのは、男同士でどうこうする世界の感覚を自分が知らないからだ。
 体が震えた。
 暗闇で何も見えないのに、思わず目を腕で塞いでしまう。
 その時、何かがサンジの頭に触れた。
 反射的に振り払おうとしたら腕を掴まれる。ビクリと体の方が先に怯えを刻んで震えた。
「落ち着け、俺だ」
 暗闇の中から返ってきた声には聞き覚えがあった。次第に目が慣れてきて、暗闇の中にぼんやりとゾロの顔が浮かび上がる。
 状況が呑み込めないサンジの目をゾロの大きな手が塞いできた。
「大丈夫だから、もう少し寝てろ」
 鼻を擽っていくのはゾロの匂いだ。同じ匂いが自分からすると思えば、ゾロに借りたシャツを着たままになっていたのだった。
 そう言えば、こいつ俺のボディガードになったんだった。
 漸く一連の流れを思い出す。
 ゾロがいるのなら、確かにストーカーの侵入に気を張ることはない。
「ん……」
 頷いたつもりが、うまく声にならず寝ぼけた声になった。
 ゾロの手が生み出す優しい暗闇に引き摺り込まれて、またサンジは眠りの世界に落ちていった。



 朝起きると、上半身裸のゾロがベッド脇に転がっていた。
 昨晩、俺がどれだけ動転していたか分かる光景だった。
 何せ俺はゾロの服を借りっぱなしだし、おかげでゾロは着るものがなく上半身裸……腹巻きだけは身に着けている……と言う、シュールな姿を披露している。
 ゾロを起こそうかどうか迷ったが、自分の記憶の中にある光景が夢でないのなら、明け方近くまでちゃんとボディガードとしての役目をはたしてくれていたのだろう。
 別に、俺は男だし、ここまで心配してもらう必要はない。ナミさんだって、ゾロが騒動を起こさないようにボディガードと言う名目を作って、ゾロを俺に押し付けただけだ。
 なのに、ゾロは昨晩律儀にボディガードの仕事をやってくれたわけだ。
 まだ目元にゾロの掌の温もりが残っているような気がする。
 目を擦ってみれば、一気に夢心地な気分が吹き飛んだ。
 ゾロに借りた服は流石に洗濯して返すべきだろう。仕事までに少し時間があったので、風呂場で洗って干しておく。
 昨晩ゾロに出してやった料理は見事に完食されていた。皿はどうせ食いっぱなしになっているんだろうと思えば、綺麗に洗ってある。
 こう言うことが出来る奴だったことをサンジは始めて知った。船でいつも率先して食器洗いを手伝ってくれるのは、チョッパーやウソップで、ゾロは1度も手伝ってくれたことがない。
 ルフィのように手伝わせても逆に仕事を増やすパターンもあるので、ゾロもその類だろうと思っているが、少なくともルフィは食べたら食べっぱなしで片付けると言うことは知らない。
 意外な一面を見た。
 ほんの少しだけ見直したので、サンジはゾロにブランケットをかけてやった。



   ***

 流石に昨日の今日だからか、変な視線を今日はまだ感じていない。
 これに懲りて、もうストーカー行為なんてものは止めてくれないだろうか。サンジは密かに溜め息を吐いた。
 ゾロが俺の部屋に住み着けば、ストーカーも俺に男がいたと勘違いし、流石に諦めるかもしれない。それはストーカーの目的が、本当に俺自身であった場合に限るのだが、昨晩やられかけたことを思い出せばその可能性は高いのだ。
 昨日のあれじゃあ、ストーカーの目には、ゾロが俺の恋人に見えただろうか?
 ストーカーとは言え、そんな勘違いをされるのは何だかげんなりくるが、この場合仕方ない。
 ゾロが俺の恋人って一体どんなギャグだよ。
 悶々考えていたら、あっという間に昼休憩の時間になってしまった。
 今日は店も然程忙しくならず、ストーカーらしき視線も無いので、平和そのものだ。
 いつものように賄いを作ってやっていれば、ふと、ゾロのことが気にかかった。
 ゾロはそろそろ起きただろうか?
 流石に腹を空かせているかもしれない。
 サンジは賄いで作った料理を容器に詰めると、少しだけ外出してくると声をかけ、店の裏口から外に出た。
 


   ***

 目が覚めると、とっくに日は上っており、コックの姿はもう無かった。
 空になったベッドは冷たく、ゾロにはブランケットがかけられている。
 コックは仕事に行ったのだろうか?
 コックから目を離さないでと、ナミに口酸っぱく言われていたことを思い出す。仕事に行ったんだったら、昨晩のような危険もないだろうが、万が一のことがあったらナミにどやされるのは自分だった。
 そもそも、あのコックに男のストーカーがつくこと自体既に在り得ない。
 サンジ君に全く危機感ないようだから言うけど、今多いのよ。男につくストーカーって。
 ナミはそう言っていたが、それでもゾロは半信半疑だった。どうせ自意識過剰すぎて、あのコックが何か変な勘違いをしているに違いない。
 昨日、コックが襲われている光景を見るまでゾロはそう思っていたのだ。
 だが、結局ナミの言う通りだったわけである。
 誰があのアホコックに欲情なんてするのだろうかとバカバカしく思っていたはずが……。
 丁度目につく位置にゾロのシャツが干してあった。
 昨晩ゾロがサンジに貸したものだ。
 コックの首筋に歯型がついていたのを見兼ねて貸してやったのだ。よくよく考えてみれば、ここはコックの借りている部屋なのだから、シャツの1枚や2枚は替えがあったはずだ。
 なのに、コックはずっとゾロのシャツを着ていた。
 コックなりに相当動揺していたに違いない。
 何だか体が熱くなってきた。
 ゾロはサンジをそう言う目で今まで見たことはなかったが、うっかりストーカーの気持ちが分かるような気がしてしまった。
 コックは無自覚なのだろうが、昨日あいつが見せた不安定な危なっかしさは非常にマズイ。普段の生意気なコックを知っているから、弱ったコックが妙にしおらしく見えて変なツボを押されたのかもしれない。
 昨晩自分のシャツを着たまま眠り込んでしまったサンジの姿を思い出し、ゾロは更に熱が上るのを感じた。
 平気そうにしてはいたが、夜中に魘されていたのだ。不謹慎にも、その姿に欲情したなどと、言えることではない。
 強がるくせに、どこかで怯えている。
 相当今回のことが堪えているのだろう。
 テーブルの上に朝飯と思しき握り飯が置いてあった。ゾロはふと時計を見上げたが、もう昼すら大分前に過ぎてしまっている。
 昼飯を通り越して、これでは3時のおやつ状態だ。
 握り飯を頬張ったゾロは、ふとあのコックのことだから俺の分の昼飯まで用意しているのではないかと思った。
 あいつはそう言う奴なのだ。
 例え相手が嫌いな奴であっても、敵であっても、コックとしての職務に忠実で誰にでも飯を食わせたがる。
 ゾロはハッとした。
 何だか嫌な予感がしたのだ。
 コックが店に留まっているのならまだいい。人目のあるところでは流石にストーカーも動かないだろう。
 だが、もしコックが店を出たとしたら?
 コックが昨晩のあの時間に帰ってくることを身通して、部屋の中に侵入までしていたストーカーのことだ。
 コックの行動を把握している可能性も高い。
 ゾロは慌てて部屋を飛び出した。
 コックが働いている店へ急ぐ。
 コックから目を離すなと言ったナミの声がグルグルと頭の中を回った。
 単なる自分の取り越し苦労であればいい。
 だが、急いでも急いでも、なかなか店が出てこない。コックが借りている部屋から店までは歩いて5分程の距離だったはずだ。
 なのに、5分などとっくに過ぎてしまっている。いつの間にかゾロの目の前には見覚えのない風景が広がっている。
「クソッ、ここはどこだ」
 大丈夫なはずだと思えば思うほど、何故だか焦りが生まれてくる。



   ***

「ゾロの奴いねえし・・・・・・全く俺のボディガードのくせしてどこ行きやがったんだよ」
 急いで昼食を運んできてやれば、部屋は蛻の殻だった。
 まあ、あいつはあれで頼まれたことはちゃんとやる奴なので、もしかしたら俺が働いている店を探して、今頃迷子になっているのかもしれないが。
 何であんな奴の肩を持つような言い訳ばかりを探しているのか、自分でも不思議だった。
 それにしても・・・・・・と、サンジは息を潜める。
 何者かの気配がこっちに近づいてきているのだ。
 どうやら、またストーカーのお出ましらしい。昨日の今日で本当に懲りないストーカーである。
 サンジはシャツの胸ポケットから煙草を取り出して、火をつけた。
 それにしても、今日はストーカーの気配が丸分かりである。昨日までは視線だけ感じて、どんなにサンジが気配を掴もうとしても、掴めなかったのだ。
 もしかして、わざと気配を感じさせているのだろうか。
 相手がどんなに俺より強い相手であっても屈する気はない。逃げようと思えば、窓から飛び降りるなり何なりして、逃げることも出来る。
 だが、何となくそれは癪だった。
 ストーカーをこの手で捕まえてとっちめてやりたい衝動に駆られる。それに相手の正体を把握しておく必要もあるだろう。
 相手がただの俺についたストーカーだったらまだ目を瞑って良しとする。だが、海軍や海賊狩り関係だったら、容赦はしない。
 サンジは煙草の煙を思い切り吐き出すと、その火を指先で握り潰した。
 足音がドンドン近づいてくる。サンジは気配を殺してドア影に身を潜め、ドアが開くのを待った。
 しかし、なかなかストーカーは室内に侵入してこない。それどころか足音が行き成り消えて、キンと剣を鞘から抜く時のような、微かな金属音がした。
(ゾロ?)
 サンジは一瞬ゾロが戻ってきて、ストーカーを退治してくれたのだろうと思った。今滞在している街は平和を絵に描いたように穏やかなところで、武器を持ち歩く住人はいない。
 剣を所持しているような人物など、ゾロ以外に思い浮かばなかった。
 だから、サンジはついドアを開けてしまった。
 本当にゾロだと思ったのだ。一瞬漏れた気配もゾロのものによく似ている気がした。

 だが、それはゾロであってゾロではなかった。



 急に口を塞がれ、室内に押し込まれる。直後にご丁寧に鍵をかける音がした。
 昨日と全く同じパターンで壁に押し付けられ身動きを封じられる。悲鳴を上げる間もなかった。
 今は夜ではない。昨晩とは違って日の明るさがあるので、相手の姿を今になって漸くはっきりと見ることが出来た。
 黒いフードを頭から被っているので、その顔はよく分からない。だが、体格のいい男だ。
 サンジよりも身長が僅かに高いので、上から見下ろされている。
 やはりサンジには見覚えのない男だった。
 少しでも相手のことを探ろうと視線を下ろせば、腰に剣を携えているのが分かった。フードの下は着物のようなものを身に纏っており、胸元は開いている。
 その胸を横切る大きな傷には、何だか見覚えがあるような気がしたが、そんなことを悠長に考えている場合ではなかった。
 恐らくこいつ、昨晩俺を襲った男と同じ奴だ。
 サンジは何とかして男の腕から逃れることが出来ないだろうかともがいたが、やはりビクともしない。
 それどころか暴れるサンジを押さえつける手には益々力が篭められ、掴まれた腕に痛みを感じた。
「見ろ、テメエがフラフラしてやがるから、変な野郎に付き纏われんだろうが」
 男が口を開いた。
 サンジは大きく目を見開いて、男を凝視する。
 何だか声の調子と、その物言いがゾロに似ているような気がしたのだ。
「変な野郎ってそりゃテメエのことだろうが、このストーカーが」
 サンジは自分の口を塞いでいた男の指を思い切り噛んで、言い返した。
 噛まれた指を男は口に運んで、滲んだ血を舐める。
 覗いた舌に何故かドキリとした。色の薄い舌に血が絡む。
「テメエの匂いがする」
「は?」
「煙草と料理の匂いだ」
 カッと血が上った。
 開いた口を閉じることが出来ずにパクパクと魚のように上下させることしか出来ない。
 こいつヤバイ。
 正真正銘の紛れもないストーカーだ。
 サンジは反射的に逃げようとしたが、やはり抑えられた体は全く身動き出来なかった。
 見たところ、まだ若い男のように思える。俺とはあまり変わらないはずだ。
 なのに、ここまで実力差があるのかと、男としても何だか屈辱的でならない。こんな奴にやられちまえば、俺は立ち直ることなど出来ないだろう。
 剣を携えているのなら海軍や海賊狩りの線もあるが、今はそんなことを冷静に推測している場合ではなかった。
「離せ!」
 サンジは叫んだ。
「離してやってもいい。だが、テメエにはテメエがやったことの責任ぐらいちゃんと取ってもらう」
「何のことだ?」
 サンジが首を傾げたその時、急に体が浮遊した。
 何だと思えば、男に担ぎ上げられている。
「なななな何しやがる」
「黙ってろ。舌を噛むぞ」
 このまま連れ去られてどこかに監禁された挙句、口に出しては言えないことを散々されちまうんだろうか? 調教されて性に貪欲な体に仕込まれちまうのか・・・・・・。
 どこぞやのアダルト映像ちっくな展開を予想して、サンジは青褪めた。
 そんな俺を人質にして、仲間達に取り引きを持ちかける卑怯者だったりしたら、俺はどうすればいいんだ。
 だが男はサンジをベッドに放り投げただけだった。
 どこかに連れ去られなかったことにホッとしたのも束の間。ベッドのスプリングが軋む音がしたかと思えば、上から男が圧し掛かってくる。
 どうやら、この場で犯されるコースだったらしい。
「ぎゃああああ、落ち着け。俺なんか抱いても何も楽しくねえだろう? 抱くなら可愛い女の子にしろ・・・・・・って、いや、レディに乱暴働くのは許せねえが、とにかく俺は胸もねえし、柔らかくもねえし、突っ込む穴もねえ!」
 錯乱して、自分が何を言ったのかもサンジはよく分からなかった。
 とにかく、この場から何とかして逃げ出さなきゃならない。
「ああ? テメエの細く白い、適度に引き締まった肢体ほどそそるもんはねえだろうが。それに突っ込む穴ならここにあんだろう」
 尻を触られた。
 ぞわぞわと肌が粟立つ。
「何なら、こっちの穴でもいいが」
 一体何のことを言われているのか分からないまま、今度は指を口に突っ込まれた。強引に口を押し開こうとしてくる指に抗って、サンジは思い切り指をまた噛んだ。
「相変わらず色気もクソもねえな」
 それで口は開放されたが、舌打ちと共に今度は顎を掴まれる。
 そのまま引き寄せられ、男の口が近づいた。
 キスされるのだと分かり、唇さえ噛み切ってしまうつもりでサンジは覚悟した。だが、顔に集中していれば今度は下の方で男の手が動く。
 太ももの内側を撫でられ、そのまま手がバックルにかかった。強引にバックルを外そうとする金属音に、サンジはついに混乱に陥った。
「や、やめ・・・・・・クソ・・・・・・ゾロ! ゾロッッッッ!」
 あの野郎、俺のボディガードのくせしてどこをほっつき歩いてやがるんだ。昨日はちゃんと助けてくれたくせに・・・・・・。
 情けなさと、戸惑いと、悔しさ。そして、半ば八つ当たりのようにゾロに対する怒りが一気に噴き出した。
 ピタリと男の手が止まる。それから一向に行為を進めようとする動作がないので、サンジは覚悟を決めて瞑った目を恐る恐る開いた。
 すると、男がサンジの上から退いた。
「やらねぇのか?」
 起き上がって後ろに下がることで多少男と距離を取りながら、サンジは訊ねた。
「もういい。いいプレゼントを貰った」
「は?」
 プレゼント? 一体何のことだろうか?
 こいつ頭がちょっと可笑しいのではないだろうか。
「何のことだよ。それにさっき俺の責任がどうのこうのって・・・・・・」
 さっさとこの場から逃げれば良かったのに、つい気になって訊ねてしまった。
 もう男からはさっきまであった凄まじいほどの気迫は消えている。男と対峙した時、問答無用で身動きを制御されるような感覚があったのだ。
「今回のことはお前が招いた結果だってことだ。これに懲りて、誰にでもヘラヘラアホっぽく緩い面を振りまくのはやめろ」
「何で見ず知らずのストーカー野郎にそんなこと言われねぇとなんねぇんだよ」
「いいから、やめろ。じゃねえと、今から犯すぞ」
 瞬間、またサンジは身動きが取れなくなった。
 よくゾロにバカだアホだと言われるが、確かに今の俺はバカでアホだ。
 だから、さっさと逃げれば良かったのだ。
 男がまたサンジに近づいてくる。ベッドによじ登って、サンジを壁際にまで追い詰める。
 ギシリギシリと2人分の体重を乗せて、ベッドが鳴いた。
 皺が無数に刻まれた白いシーツが何だか卑猥だ。
 男の手がサンジのシャツに伸びて、あっさりと引き裂いた。
 なのに、サンジはもうあまり危機感など覚えずに、お気に入りのシャツどうしてくれるんだよ・・・・・・とか、そんなことを呑気に考えていた。
 犯されそうになっていながらだが、何となくこいつは、悪い奴ではないような気がした。
 それに、やはり似ていると思う。
 身に纏う空気が、あいつに・・・・・・。
 男の手がサンジの首筋を這っていく。サンジはゾクリと震えて身を捩った。
「ただでさえ感じやすい体してんだから、本当に気をつけろ」
 気をつけろも何も、テメエ自身がストーカー強姦魔のくせしてよく言う。
 男の唇がサンジの胸に落ちて、肌を軽く吸った。
 その時、サンジはふと、男の腰に見覚えのある腹巻きがあるのを見た。もしかして・・・・・・と思い、フードで隠された顔を覗き込もうとするが、男はサンジの胸に顔を埋めているので、余計に見えない。
 だが、これはチャンスだ。
 サンジは恐る恐る手を伸ばして男の頭からフードを取った。
 見事なマリモ頭がそこにはある。いや、マリモと言うにしては、ほんの少し髪が長いかもしれない。
「お前、ゾロ?」
 いや、まさか、そんなはずはない。
 体格も髪の長さも違う。背だって、こいつは俺と同じぐらいだったはずだ。それに、ゾロと俺は同じぐらいの強さで、こんなに力の差が出るはずもない。
 何より、こいつがゾロだとしても、ゾロが俺をストーカーした挙句、強姦しようと考えること自体間違っている。
 漸くサンジの胸元から男が顔を上げた。
 ゾロによく似ていた。だが、ゾロと言うには、ほんの少しだけ大人びている。
 口に人差し指を当てて、ゾロに似た男はニッと笑った。
「俺がテメエに悪戯したことは、黙っておけよ。俺がどのみち怒られんだ」
「は?」
 そう言うなり、一体何だったのか、ゾロに似た男は忽然とサンジの目の前から消えてしまった。



   ***

 コックの借りている部屋の前に見知らぬ男が転がっていた。
 どうやらこいつがコックを数日付け回していたストーカーであるに違いない。コックが仕留めたのだろうか?
 だが、コックが言うにはストーカーは只者ではないと言う話だったはずだ。どこからどう見ても強そうには見えないストーカーは、すっかり気を失ってしまっていた。
 どこにも外傷が見当たらないので、一撃で急所をつかれたのだろう。
 こんな男にしてやられるとは、やはり昨日のコックは相当気が動転していたらしい。
 こいつのせいで、俺はコックのボディガードなんて面倒くさい役割を押し付けられる羽目になったのだ。
 丁度目を覚ましたストーカーを睨み付けてやれば、男は情けない悲鳴を上げながら一目散に逃げていった。
 これで一件落着のはずだ。
 ゾロは部屋のドアノブを回した。だが、ドアが開かない。
 部屋の前にストーカーが倒れていたのだから、てっきりコックは戻ってきているものだとばかり思っていたのだが、すれ違いになったのだろうか?
 それにしては、ストーカー男は気を失わされたまま、放置されていたわけで。
 何だか嫌な汗がゾロの背中を伝った。
 ただでさえ、コックの働いている店を探して散々街中を駆け回ったのだ。結局店に辿り着くことが出来ず、漸く見覚えのある場所に戻ってきたと思ったら、コックが借りている部屋の方だったわけである。
「おい、コック! いるのかいねえのか」
 ゾロは昨日も斬り捨てて怒られたばかりのドアを、また斬って強引に開けた。
 すると、真正面にあるベッドの上にコックが横たわっている。
 ゾロのことに気づき、気だるげにコックは体を持ち上げた。
 体に纏っているシャツは昨日と同じように乱れ、完全に露になっている胸元には噛み痕ではなく、くっきりとしたキスマークがついている。
 最悪の展開になってしまったらしかった。
 ゾロはそんなサンジの姿を見て一瞬で逆上した。
「俺の留守中に・・・・・・どこのどいつだ! 顔を見せやがれ」
 ストーカー野郎の姿を探して剣を握ったまま怒鳴り散らしたが、自分達以外の人の気配はどこにもない。
 コックはベッドの上から動かずぼんやりとしている。
 そりゃそうだろう。男が男にやられちまってんだ。平気でいられるわけがねえ。
 コックから何か情報を聞き出せればいいが、今の状態のコックから事の経緯を聞き出すのは、気が進まなかった。
 正直、今のコックの姿を目に入れるだけで、抑えの利かない怒りが爆発しそうだ。
「クソッ!」
 ストーカー野郎を一刻も早く探し出して制裁を与えなければ気が済まない。むしろ見つけ出して殺してやろうか。
 そんな物騒な考えがゾロの頭の中を過ぎった時、行き成りサンジが笑い出した。
 ゾロは驚いた。
 あまりのショックで、気でもふれちまったんじゃないだろうかと、慌ててコックの傍に駆け寄る。
 すると、コックはあっけらかんと言った。
「何もされてねえよ」
「は?」
「だから何もされてねえって」
「嘘つけ! じゃあ、その格好は何だ! 痕だって残ってんだろうが」
「え、いや・・・・・・これは・・・・・・まあ、ちょっと肌吸われたってだけで」
「十分何かされてんだろうが!」

 ものすごい剣幕で怒鳴り散らすゾロを見ていると、何だかホッとした。


 サンジはゾロの顔をしっかりと見据えた。
 やはりさっき自分に襲い掛かってきた男は、どこからどう見てもゾロに似ていた。だが、ゾロに兄弟がいると言う話は聞いたことがない。
 親戚とかだろうか・・・・・・とも、考えたのだが、それにしても似すぎていた。
「なあ、テメエ・・・・・・将来、目とか失う予定はねえよな?」
「は? あってたまるか!」
「だよなぁ・・・・・・」
 サンジはそのままもう1度真剣に考えてみたが、結局、ゾロに似たあのストーカー男のことは分からなかった。
 だけど、ただ1つ、何となく分かったことがある。
 サンジはまだ動転しきっているゾロの顔をベッドの上から見上げた。
 マリモ頭にはどこをどう彷徨ってきたのか、木の葉が沢山ついているし、その顔は汗でびっしょりと濡れている。
 強い敵と対峙した時以上に余裕のない焦りが滲みまくっていて、手に持った刀には強く力が篭められているのか、拳に血管が浮いていた。
 全く未来の大剣豪が、たかがストーカー1人で情けないものだ。
「なあ、お前、俺のこと好きだろう?」
「はあ!? 何とち狂ったこと言いやがる、このアホコックが」
 この反応を見るに、もしかして無自覚なのだろうか?

 まあ、それならそれで、別に構わねえけど……。

 サンジはゾロの腹巻きを掴んで自分に引き寄せると、ゾロに口付けてみた。
 ゾロの驚いた顔が見物で、可笑しい。
 なかなか、こんな顔見られるものじゃないだろう。
 ゾロに自分からキスしちまうなんて、俺もストーカーにすっかり洗脳されちまったのかもしんねぇ。
 だが、まあ、あり得ない展開だけど、俺から始まる恋愛があってもいい気がした。

 そこで視界が一気に反転した。
 あれ? と思っていれば、サンジはベッドの上に押し倒されている。真上にゾロの強張った顔があった。
「つまり、やっていいってことか?」
「ま、待て、何で行き成りそうなるんだよ!」
「昨日からテメエの乱れた姿ばかり見せられて、こっちは爆発しそうなんだよ」
「勝手に人の姿見て欲情してんじゃねえええ」
 サンジの叫びも空しく、完全に目の据わった余裕のないゾロが、ストーカーのつけた痕を消すように自分の唇を押し付けてくる。
 サンジは呆れ声で呟いた。

「お前が俺のこと好きなのがよーく分かった」



   ***

「いい誕生日は過ごせたか?」

 急に辺りが白い靄に包まれたと思ったら、まだまだ幼さを残していたガキくさいコックの顔が消えて、ナチュラルに色気を纏う、自分のよく知ったコックの顔が飛び出てきた。
「元に戻ったのか?」
 きょろきょろと周囲を見回せば、見知ったサニー号のダイニングである。
「口にすればたった1度だけ戻りたい時間に戻ることができます……って謳い文句、怪しすぎだろうって思ったけど本物だったんだな」
 シレッと核心をついたコックにゾロは脱力した。
 確かに、変なもん食わされた記憶がある。
「それで、いい誕生日は過ごせたか?」
 もう1度同じことを聞いてくるサンジに、ゾロは仕方なく頷いてやった。
「まあ、それなりにな」
 誰もいないことを確認してサンジを自分の腕の中に抱き寄せる。
 関係を持って、何だかんだで恋人同士なんてもんになっちまってから随分と経つが、未だに、これしきのことで顔を赤く染めるコックの可愛さと言ったらない。
 2年前のこいつを見た後だからか、今自分の腕の中にいるコックがやけに新鮮に感じられた。


 コックの仕業でひょんなことから2年前の過去に戻る羽目になった俺は、原因を作った本人に責任を取ってもらおうと、19歳のコックを探していた。
 漸く見つけたと思ったら、コックの尻を狙うストーカーの存在を発見してしまい、その護衛とばかりにずっとコックに張りついていたのだった。
 それがどうしたことか、俺の方がストーカーに間違われる始末である。あまりにも頭に来たのと、19のコックの初々しい純粋さにやられて、つい悪戯してしまったわけだが、この様子だとコックはその時のことを覚えていないのだろう。

「お前が俺のことを好きなのがよーく分かったしな」

「何だよ、そりゃ・・・・・・」
 ゾロの口から出た台詞と同じものを、以前どこかで聞いた気がしたが、サンジは思い出すことが出来ない。
「まあ、いいから今日は大人しく俺に抱かれていろ」
「何でそうなんだよ!」
「テメエには、たっぷり責任とってもらわなきゃなんねぇしな」
「は? え? あ、いや・・・・・・ちょ、やめ・・・・・・ん・・・・・・」

 
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