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侵蝕ノスタルジア4

2013.06.12 09:35|Novels
 シャボンディ諸島に仲間達が集う2年後の約束の日。
 その丁度一か月前に、長く鳴ることのなかった電伝虫が鳴った。
 前に電伝虫が特徴的な音で鳴ったのは、もう大分前のことになる。それこそ、カマバッカ王国に飛ばされ、何が起こったのか判断もつかず、仲間達の安否も分からずに途方に暮れていた頃のことだ。
 それ以来一度も鳴ることの無かったものが鳴った。
 あまりにも長い間、使用されることの無かったものなので、あの時、電伝虫で交わした会話、約束が夢、幻のように思いかけていたところでの見計らったかのような警告だった。
 電話の相手は、あの時俺が約束を交わした男。トラファルガー・ローだ。
 サンジはカマバッカで過ごしていた間、何も料理や、技の修行だけをしていたわけではない。
 オカマ達の情報能力を駆使してトラファルガー・ローと言う存在のことを調べ上げ、現在奴が王下七武海入りしていること。どう言う手段で七武海入りしたかなど、大体の事情は把握していた。
 残忍で知られる死の外科医の性格を計るためでもあったのだが、サンジの耳に入ってくる情報はどれも、その残忍性を教えるものだった。
 サンジが持ったトラファルガー・ローに対する印象は犀利で、狡猾。
 現状を的確に見据え、先に起こることを冷静に頭の中で計算し、それを実行出来るだけの実力すら備わっている。
 そいつを出し抜くには更に働きのいい頭と、身体的な能力が欠かせないわけだ。
 サンジとて、幾らトラファルガー・ローから提示された条件を鵜呑みにしたからとは言え、大人しくその状況に甘んじる気はなかった。
 どうにかして現状の奪回を計れないかとカマバッカ王国にいる間、考え続けていたのだが、結局のところ相手の目的が分からないことにはどうしようもない。
 このまま電伝虫など鳴ることがなかったらいい。
 そうしたら俺はあいつとの約束も忘れ、2年前に俺を海に連れ出してくれたルフィの元へ、そして楽しく明るい場を作り出してくれる仲間達のところへ戻ることが出来るのに。
 何度そんな思考に囚われただろう。
 いよいよ来るべき時が来たかと小さく深呼吸をして電伝虫を取る。
 そいつは名乗りはしなかったし、サンジも名乗りはしなかった。
 だが、電伝虫の向こう側の相手は受話器を取ったのがサンジだと分かっているようだったし、サンジも相手があの時の男、トラファルガーだと直ぐに分かった。
 何か気の利いた話の1つでもしてくれればいいものを、ローは待ち合わせ場所の指定と、日にち時間だけを簡単に告げて直ぐに通信を切ってしまう。
 会話だけを見れば、まるでデートの約束のようだとも思った。
 要件だけを伝えて終わる。何年も顔を突き合わせたカップルが、敢えて睦言を口にせずともどこかで分かり合っているような。
 淡々として味気ない。
 当然、そんな可愛げのある通信では無いのも確かなのだが、ついサンジはそんな想像をしてしまった。
 そんな自分が可笑しかった。



 トラファルガー・ローからの連絡があったその日のうちに、サンジは待ち合わせ場所に指定された島の位置の確認をし、その日のうちにカマバッカを出る支度をし始めた。
「まだ少し早いんじゃないの?」
 周りにわらわらとオカマ達が集ってくる。
 持ち物などそう多くはない。何せここに着の身着のままでクマ野郎に飛ばされたのだから、約2年滞在していた島でも、持って行くものなどそう増えてはいなかった。
 何せここで買えるものと言ったら、オカマの支配する国なだけあって、どうしても女装グッズ関連になるのだ。
 今サンジが着ている男もののシャツ1枚だって、手に入れるために血反吐を吐くような思いをしたのだった。
 小さな巾着袋に必要最低限の持ち物だけを詰め込む。
 その視界にオカマのハイヒールを履いた足が数本。これが本物のレディの足だったら、カマバッカ王国で過ごした約2年の月日は、サンジにとって地獄などではなく、パラダイスに近いものになっただろう。
 あ~あ、ナミさんとロビンちゃんに会いたいなぁ。
 ふと、サンジはそんなことを思った。
 何せこの島には本物の女性と言うものが1人もいないのだ。おかげでサンジの感覚はすっかり麻痺してしまっている。
 最初の頃は女装したオカマ達を見る度に吐き気すら催しかねない程の嫌悪感一杯で、極力視界には入れないようにしていたのだが、流石に2年も経つ頃には、脛毛の生えた太い足がハイヒールを履いている光景にも慣れてしまった。
 もう行っちゃうの? と口々に別れを惜しむオカマ達の声が続けて聞こえる。
「先に寄るところがあるからな」
 簡潔に一言、そうとだけ述べた。
 この島のオカマ達とも、長く一緒にいればそれなりに親しくなった。だが、サンジはその誰にもトラファルガー・ローとの取り引きについて口にしたことはない。
 誰か1人に知られれば、後々危険を孕む可能性もあり、また自分の決心も鈍ると思った。
 また誰に相談しても罠だと言われるだけだろう。
 あいつからの条件を飲んだ自分の考えを浅はかだとは思わない。自分で決意を決めたことでもあるのだが、やはり気は進まないのもある。
 早くオカマだらけの島など出てしまいたいと言う気持ちの強かったものが、別れ際の引き止める声が無数に連なると、何だか寂しくなってしまうのだから不思議なものだ。
 寂しいと言う感情がまだ自分にもこうして出てくる。
 サンジは漸く拗ね毛だらけの足の群れから視線を上げて、オカマ達の顔を見た。
 どいつもこいつも濃い顔ばかりが連なっていて、やはり生理的に受け付けない。
 だが、性別と言う柵を捨てて、自分達の思うまま、望むままの姿で生き生きと生きているオカマ達のことを心から嫌いになれないのも確かだ。
 それに、どこかで、サンジはオカマ達のそう言う生き方を尊敬すらしている。当然、そんなこと死んでも口にすることはないのだろうが。
「世話になったな」
 礼を口にすると、厳つい顔が一気に歪んでボロボロと凶悪な涙を零し始める。
 泣くのはレディの特権だろう! お前達が泣いても可愛くねえよ!! なんて、悪態を吐きながらも、悍ましい光景の中でサンジの胸は幾分か満たされた。




***


「よく逃げずに来たな」
 
 待ち合わせの島はカマバッカからそう遠く離れてはいない、3つ程島を経由した先にあった。
 小さな島だが、一応そこそこの街はある。
 グランドラインには在り得ない島、例に挙げるならさっきまでサンジが滞在していたオカマしかいない国のようなものが無数にあるが、その島はこれと言った特徴もない、サンジの知る範囲での極々一般的で普通の島だった。
 過疎すぎず、目立ちすぎず。
 勝手にトラファルガー・ローの印象を策士と思い込んでいるサンジには、尤もな場所指定だと感じた。
「そう言う約束だろう?」
 どうせ、この男は俺が逃げ出す可能性なんて1つも考えていないんだろうなとサンジは思う。何となく俺の性格などこいつは見通していて、俺が取るだろう行動すら把握しているのではないかと言う感覚があった。
 トラファルガー・ローとは2年前、シャボンディ諸島で少し顔を合わせた程度の関係である。
 時間にしても数分程度。
 その時は黄色いパーカーに、ファー状の帽子を被っていた。目の下に不健康そうな隈のある男だと言う特徴だけでぼんやりと顔を覚えていたが、それ以外に目立った特徴も無かったように思う。
 何せ、ルフィと肩を並べた当時の超新星の面々を思い出せば、他の奴等が強烈すぎるせいか、トラファルガー・ローと言う男は、やはり目立ちもせず、だからと言って人目を惹かないわけでもない無難な位置づけにいたように思う。
 しかも、サンジはどちらかと言うと、ローよりも、その仲間と思しき、人の言葉を話すクマの方が気になっていたし、より印象に残っていた。
 周囲を見回してみたが、その仲間を連れてきた様子はなさそうだ。クマの姿どころか、人の姿1つ見えない。
 あくまでもここにはロー1人で赴いたらしい。
 2年前は派手な黄色い衣服を身に着けていたくせに、今は襟元にファーのついた黒い控えめな衣装を着ていた。
 いや、ファーがついている時点で控えめとは言わないのかもしれないが・・・。
 頭の上にある帽子は相変わらずあの頃と同じで、触るとふわふわもこもこして手触りが良さそうだった。
 襟元のファーといい、頭のファーといい、こいつはふわふわもこもこしたものが案外好みなのだろうか?
 どう見ても顔のイメージと合わないだろう! なんて突っ込みを心の中で密かにしていれば、何故かローの眉が怪訝そうに潜まる。
 まさか、こっちの思考を読みとる能力なんて持ち合わせてるわけじゃねえだろうな・・・と一瞬ドキリとした。
「麦わら屋は俺が治療して助けてやったんだ。それを確認してんならお前が律儀に俺との約束を守る必要はないんじゃねえか?」
 真面目な顔でそんなことを言ってくるローに、サンジの方が今度は怪訝な顔をして見せる。
「まるで約束を反故にした方が良さそうな言い方をするんだな」
「そう言うわけじゃねえが、ただ不思議な行動だと思っただけだ」
 てっきりサンジはこの男がこっちの性格や行動を全て見通した上で、行動を起こしているものだとばかり思っていた。だが、今のローの言い方は、どうもそうではないような雰囲気が窺える。
 不思議な行動? 自分で条件突き付けてこっちを脅しておきながらか?
 不可解だ。
「残忍で知られる死の外科医様のことだ。そう易々俺を逃がすことはしないだろう。目的があるんなら尚更な」
「その通りだ。案外賢いんだな」
 あっさりローはそのことを認めて、サンジに手を伸ばして来た。
 何をされるのかと、ローの持つ悪魔の実の能力を思い出し、サンジは思わず身を竦めたが、その手はサンジの頭をそっと撫でてくる。
 何だ、その行動は?
 サンジの中で、2年間ずっと自分なりに形成していたトラファルガー・ローと言う男の印象が崩れていく。
 確かに狡猾で、冷静沈着であると言うイメージはそのままだが、それ以外のものがちゃんとこの男にもあるんだと言うことを、2年ぶりの再会の日にサンジは考える羽目になった。
「バカにしてんのか?」
 自分の頭を撫でてくるローの手は優しかったが、こっちは一応成人した男だ。丸っきり子供扱いされているようで、腹が立つことは立つ。
 そもそも、お前俺とそんなに変わらないぐらいだろう? と言う質問を投げかけたら、俺より5歳上だと言う。
 年上だとか、年下だとかに拘る程、もうガキでもないつもりだが、自分と同じぐらいだと思っていた男が、5つも年上と言う事実は、何となく腑に落ちなかった。
 サンジの頭を撫でていたローの手は、そのまま頬に落ちた。
 何だろうか、この光景は・・・と、まるで野郎同士のラブシーンを披露しているような形になってしまっていることが落ち着かない。
 ローはサンジの頬すらサラリと撫でて、その後、首元に手を落とした。
 首も撫でるのかと思えば、脈の辺りを押さえつけられる。
 だからと言って、首を締めようとするのではなく、あくまでも脈を計っているような感じだったので、そこで漸くサンジは自分が触診されていることに気付いた。
 ついつい忘れてしまいがちだが、こいつは医者だった・・・と確認ように思い出す。
「麦わら屋の心臓を俺は持っている」
 暫し、ローにされるがままになって大人しくしていたサンジだが、会話の落ちない無言の空間に急にポツリとローが言葉を落とした。
 どんなタイミングでの確信発言なんだよ・・・と、サンジは呆れる。
 さっきの話の続きだとは直ぐに分かったが、あまりにも間が空きすぎて、判断に少しだけ手間取った。
「驚かないのか?」
 その分、直ぐに反応を返せずにいたサンジを意外そうなローの目が見つめてくる。
 そうして俺の反応を窺っているのだろうか?
 医者って言うのは人の言動を分析して、そいつ自身の適正を計ってしまえる技術を持っている奴もいるんじゃないか?
 精神科医とかは特にそうなんだろうな・・・と、こっちも冷静にローと言う男のことを分析しながら、サンジは小首を少し傾げてやった。
「驚いてほしいのかよ?」
 質問を質問で返す。
 下手に反応を返すよりは、尤も相手が俺のことを探りにくいだろうと思ったからだ。
 しかし、ローからの返事は返らなかった。
 沈黙で会話が成り立つと思ったら大間違いだ! と言いたい気持ちをグッと堪えて、サンジは本題を切り出す。
 さっきから無意味な会話ばかりを繰り返していて、肝心なところに一向に踏み込まないことが焦れったくなってきたのだ。
「それで、俺の体をお前に預けるって言うのはどう言うことだ?」
 ローと2年前に交わした約束は、ルフィの命を助ける代わりに、俺の体をローに預けると言うものだった。
 ローの預けると言う言い方をサンジは2年間ずっとどう言うことなのかと気になっていた。単純に俺の体を実験体にしたいと言う意味なのか、俺をここで殺そうと言う意味なのか。
 あるいは奴隷にすると言う見方も考えられるし、もしくは・・・。
 チラリとサンジは自分達が立っている場所の真横にある建物を見上げた。
「もしかして、そう言う意味でこんな宿の前で待ち合わせたってわけじゃねえよな?」
 何の因果か、ローとサンジが現在立っているのは、所謂連れ込み宿の前である。
 そう言う行為を致すために存在する宿の前で男が2人、長くうだうだと会話を交わしていると言うのは、自分達以外の目から見れば、当然恋人同士のようにしか見えないはずだ。
 幸いなことに、さっきから人通りなど一切ないのが唯一の救いであるのだが。
 2年前を彷彿させる。
 そういや、シャボンディ諸島でローに声をかけられたのも、こう言う宿の前だった。
 おかげで俺はローのことを、最初行為目的のナンパ男だと勘違いした程だ。
「そう言う意味合いのことをしたいんだったら、相手にしてやってもいい」
 こっちが訊ねたはずが、何故かとって返され、俺に判断を委ねられる形になった。
「何でそうなるんだよ・・・」
 純粋な呆れを口にしてやる。
 しかし、今のローの発言は、俺とそう言うことをする羽目になっても構わないと言うニュアンスが暗に込められてもいるのだ。
「まさか、2年前のあの時に俺を見初めてたとか?」
「そう言う趣味はない」
 一刀両断された。
「だよなぁ・・・」
 内心ホッとして胸を撫で下ろしたサンジだが、今の会話は一体何だったのか、ローはスタスタと宿へ入って行く。
「おい!!!!! 結局それかよ!!!!」
 これには思わず突っ込まざるを得なかった。
「安心しろ、お前の体を調べたいだけだ」
 足を止め振り返ってサンジを見たローの顔は無表情だ。真顔・・・と言う見方も出来る。
「安心できるかっっ!!!」
 突っ込みどころが多すぎて、既にサンジはへこたれそうだ。

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