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依存性シーカー28

2013.05.03 07:14|Novels
 あれっ、今、ゾロは何と言っただろうか?
 何だかゾロには似つかわしくない単語を、ゾロの口からゾロの声でたった今、聞いた気がする。
 幻聴だろうか?
 またサンジは硬直した。
 自分を後ろから抱き締めている存在は夢でも幻でもない体温と力強さ、そして呼吸を伝えている。
「えっと・・・その好きな奴ってのは・・・あれか? ナミさんか、ロビンちゃんってことだよな?」
 そうか!そうなのだ!
 ゾロは好きな奴が出来たから、一か月前のあの時に俺との関係をばっさり断ち切ったし、特別な日には好きな奴を抱いていたいと思って、あの時俺が突き付けた考えにも拒否を示した。
 きっとそう言うことなのだ。
 ゾロの考えていたことが分かってしまったら、何だ、そう言うことか・・・と拍子抜けしたような気分になってしまった。
 それと同時に奇妙な寂寞が胸の中を去来する。
「お前にも特別に誰か一人の人を好きになるって感情があったんだな」
 その寂寞は一体何だろうと考えながらも、勝手にそんな言葉が口から次いで出た。
 つまり俺は、ゾロが人並みに誰かを好きになったことが悔しく、とても寂しいのだ。
 いい歳した20近い男なんだから、そりゃこいつだって誰かを好きになると言う感情はあるだろう。
 だが、日頃、鍛錬か酒、その2つにしか興味の無い男に見えていただけに、ゾロがそんな告白をしてくるのはかなり意外で予想もつかないことだった。
 そもそも、好きなら好きで、もっとそれらしい態度取れって言うんだ。
 優しくしたり、もっと清潔にしたり。たまにはかっこいいところを見せ付けてみたり。
 ナミさんか、ロビンちゃんかは知らないが、もう少し接近して話をして仲良くなるなり、好きだと言うアピールをしてみるなり。
 そう言うところが一切ないから、ゾロが誰かに好きだと言う感情を抱いていたなんて全く気付かなかったのだ。
「あって悪いのか?」
「悪くはねえが・・・でも、ナミさんとロビンちゃんは駄目だからな! お前に取られるぐらいなら俺が・・・」
「何でナミとロビンがそこで出てくる?」
「何でって、好きな奴がいるんだろう?」
「2人は関係ねえ」
 きっぱりと否定された。
 ・・・ん?
 何だ?
 ナミさんとロビンちゃんが関係ないってことは、つまりゾロは誰が好きなんだ?
 耳元で溜息を露骨に吐いたような音が聞こえた。完全な呆れを伴ったそれを不思議に思う間もなく、ゾロが顔を上げ、サンジの頭を鷲掴みするようにして後ろを強引に向かせてくる。
 咄嗟に慌てて出しっぱなしになっていた水を止めた。
 船の上では真水は貴重なものであるので、普段から節水を当然のように心がけている癖がこんな場面ですら出たのだ。
 同時に洗いかけの食器とスポンジも置いたが、手についた泡を拭う余裕までは無かった。
 漸くゾロと目が合った。
 獣じみた眼光と言うよりも、どことなく不似合いに真摯な目がサンジを見ている。
「お前だ」
「は?」
「だから、お前だと言っている」
「俺?」
 ・・・・・・が何だと言うのだろうか?
 サンジはゾロの目を見たまま、今の話の流れを改めて思い出してみた。
 確かゾロに好きな奴がいて、特別な日ぐらいその好きな奴を抱いていたいと言う話だったような気がする。
 つまり、ここで導き出される結論は当然1つしかないわけだ。
「酒にでも酔ってんのか?」
「今日はまだ全然飲んでねえ」
「俺にとっちゃ、瓶の半分も酒飲んでれば十分な酔っ払いだ」
「俺は酔ってねえ」
「じゃあ、場酔いか?」
 ゾロの目は全くぶれない。
「俺よりお前の方が酔ってんだろうが。それとも、鈍いフリでもしてこの場を誤魔化すつもりなのか?」
「そんなわけあるか」
 そうは返したものの、実際のところ、ほんの少し誤魔化せればいいと思っていた。
 気付きたくないものに、俺はとっくに気付いてしまっている。
「つまり、お前、俺が好きで、抱きたいってことか?」
「ああ、そうだ」
 どうしてそうなった・・・と全力で突っ込みたい。
 ここは、そんなわけあるか! と突っ込み返しするところだろうが・・・。
「特別な日に浸るってわけじゃねえ。だが、こう言う日こそ抱いてなんぼのもんだろう。テメエを気持ちよくしてやりてえ・・・。これが俺の祝い方だ」
 何と言うか、とんでもないゾロ理論な気がする。
 無茶苦茶言うが筋が通っているルフィと似たようなものかもしれない。
 そう言うゾロには迷いが一切ないのだ。
「酒を飲むよりも、テメエは俺を抱きたいって言うのか? テメエは俺を抱いて祝った気になるかもしんねえけど、実際ダメージ受けるのは俺の方だろう・・・」
 ゾロの手がサンジに伸びて来た。
 思わずビクリと反射的に肩を竦ませてしまったのは、これからどうなるのか一瞬で予想してしまったためだ。
「怯えるな」
「怯えてねえ」
 キッとゾロを睨みつければ、微かにその口元が緩んだ。
「だから、テメエが望むように優しく抱いてやるって言ってんだ」
「何で上から目線なんだよ。抱かせてくださいの間違いじゃねえのか?」
「いいから、来い! 抱いてやる」
 サラリとゾロの手がサンジの頬を撫でた。
 サンジは一歩下ろうとしたが、考えてみれば後ろはシンクだ。下がるだけの間も無い。
 サンジの頬を撫でたゾロの手がサンジの前に差し出された。
 いかにも、俺の手を取れとばかりの、不遜で強引なゾロの態度にサンジは戸惑う。
「・・・・・・何でテメエなんかに・・・・・・」
「前は抱かれてただろうが?」
「あれは抱かれてたんじゃなくて、単なる処理だろう・・・」
 今更、そんな屁理屈がゾロに通用するわけもないのに、我ながら見っとも無い。
 だけど、ここで簡単に認めたら、俺は恐らくもう戻ることが出来ない。
 つい先刻見せた微かな笑みをあっさり霧消させ、ゾロは眉を潜めた。
 不機嫌さが丸出しになった顔から視線を逸らすよう顔を俯け、床の適当な部分を見据える。
「それに意味が分からねえんだよ。お前とそうなる理由も利益も俺には見出せない」
「何かの損得がないと、テメエは動けねえのか?」
 明らかにバカにされていることは分かった。だが、ゾロに好きだと言われ、抱かれることは、以前の行為とは全く違うことだ。
 俺はコックとしてゾロに付き合うのではなく、恋人のようなものとして付き合わなければいけなくなる。
 そうなると、チョッパーに言われたことを俺は守れる自信がない。
「何か理由が必要だって言うなら、いろいろこじつけてやる! テメエが一緒に酒に付き合ってくれるんなら、俺も少しは酒の量を減らせることが分かった。同時にテメエを抱いている時だけは酒を飲みたいと言う思考なんて一切湧き上がってこなかった。どっちにしろ、テメエがいれば、俺は酒の量を減らすことが出来る」
 どんな口説き文句だと突っ込みたい。
「そう言うのを脅しっつーんだ。お前は酒飲んで、もう寝ろ!!」
「俺がアルコール依存になってもいいってことか?」
「それが脅しだって言ってんだ・・・ったく・・・・・・」
 いいわけはない。
 人を過度に気持ちよくさせるものは、人の心を凌駕して病み付きにさせ、人をその快楽の中にのめり込ませてしまう。
 一度嵌まり込んだら、抜け出すのは至難の業だ。
 だから、容易くその依存から抜け出す方法があるのなら、仲間として、コックとしてならゾロに手を差し伸べてやってもいい。
 だが、そこに好きだとか言う感情、抱かれると言う事実が交ざると俺は、アルコール依存でも煙草依存でも、職業依存でもない。
 もう1つ、別種類の依存を発生させてしまう。
 それだけは、何とかして避けたい。
 黙り込んだサンジにじれったさを感じ、ゾロはサンジの腕をついに掴んで引っ張った。
 引っ張って自分に引き寄せ、もう一度腕の中に抱き止めてしまう。
「何すんだよ・・・」
「嫌ならさっさと逃げなかったお前が悪い」
「何で俺がお前から逃げなきゃいけねえんだ」
 ゾロの腕から逃れようとサンジは少しだけジタバタともがいたが、どれも本気の抵抗にはならなかった。
 どうして抵抗1つまともに出来ないのだろうか?
 ゾロの匂い、温もり、力強さ・・・・・・それらのものを近くに感じていると、脳がジンと麻痺していく。
 取るべき行動を失わせてしまう。
 まるで依存性が齎す中毒症状のように、体が動かなくなる。
「お前がいい」
 会話の流れの脈絡が全くないゾロの発言に、更にサンジの脳は麻痺していく。
 何か言葉を返すべきなのだろうが、口から放つべき言葉が見当たらない。
「酒よりも何よりも俺はテメエに依存してんだ。今気付いた。だから、テメエも俺に依存しろ」
 依存性は何の利点も生み出さない。なのに、どうしてゾロは簡単に依存を認め、それを俺にも強要してくるんだろうか?
「あのな、依存性は体に悪いんだ。毒なんだ。相変わらず学ばねえ奴だな、テメエは・・・・・・」
 呆れと落胆。
 そして、震えと歓喜。
「・・・・・・今、気付いたって、俺よりテメエの方が鈍いだろうが・・・。何でもっと早く気付かねえんだよ・・・・・・」
 怒る声さえも今は、らしくもなく消え入りそうだ。
 何だかものすごく悔しくなったので、サンジはゾロの胸を思い切り突き飛ばしてやった。
 突き飛ばして、体と体が離れた刹那、また自分から腕を伸ばし、今度は自分からゾロに抱き付く。
 抱き締めてやる。
「お前・・・・・・」
「言っとくが、今お前が言ったよう、お前が俺に依存してるんだからな! 俺がテメエに依存してるんじゃねえぞ!」
「じゃあ、俺の勝ちだな!」
「何でそうなんだよっっっ!!!!」
 漸く声を張り上げれば、ゾロが大口を開けて声を上げて笑った。
 バカみたいに嬉しそうな、楽しそうな顔で。
 珍しい酒を目にした時の、興味のある刀を、面白そうな剣士を目にした時と全く同じ顔で。
「おめでとう」
 何だかとても満足そうにゾロがそう口にするから、サンジは今日が自分にとって特別な日だったことをふと、思い出した。
 朝起きた瞬間から仲間達に口々に言われた言葉だが、ゾロの口からその言葉を聞くのは今が初めてだった。
「もう終わっちまうけどな」
「問題ねえ。だから、やるぞ!」
「何でテメエはそうムードの欠片もねえんだよ!!」
 ぶつぶつ言いながらも、別に悪くない気はしている。
 確かに酒を飲みながら、皆と一緒に料理を囲んで祝う誕生日はベストだ。
 だが、こう言う風に誰かの腕に包まれて、抱かれて過ごすのも、たまにはいいだろう。
 泡がついたままだった手はすっかり乾燥して、少しだけベタついていた。
 気にせずにゾロの顔を引き寄せてこっちからリードする意味でキスでもしてやろうとすれば、そのまま押し倒された。
 床の冷たい感触も、ここがキッチンであることも今は然程気にならない。
 汚すのは嫌だなと頭の隅で少し思ったし、自分はコックだから背徳感が無いわけでもない。
 だが、ふと目にした時計の針が今日をまだ指しているうちに抱き合いたいと思ってしまった。
 移動する時間も惜しむような感情が何だか可笑しかった。

「中毒になっても知らねえからな」
 サンジの忠告に、もうとっくに中毒だ・・・なんてことは敢えてゾロは言わなかった。
「毒があるぐらいがちょうどいい。どこまでも追い求めて、依存を極めるってのも悪くねえしな」
 優しくすると言ったゾロの言葉は嘘じゃなく、前に抱かれていた時と同じ手で、あの時と違う触り方をしてくる。
 本当に優しくしてくれるのなら、あの時程のダメージも残らないだろう。
「依存がてら、まず手始めに何発まで保つか試してみるか?」
 いや、前言撤回。
 やり方が優しくても、相手はあの絶倫魔獣だってことを忘れていた。
「アホか! そう言うのは依存じゃねえ。ただの欲求不満だろうが!!!!」
 サンジの文句はあっさりと、覆い被さってきたゾロの唇によって塞がれてしまった。

 時計の針が日を1日進める。

 
 
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