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屋上でする日光浴は気持ちが良い4

2013.03.13 17:58|Novels
「つーか、庭広すぎだろう!!!! 病院じゃねえよ、ここ!!! 迷いの森だよ!!!」
 別に迷子癖なんてものは俺にはないのだが、屋上から飛ばされた履歴書を探しにマッハで下りて来たら見事に迷った。
 そもそも庭園なんてあっちを見てもこっちを見ても緑と花と緑と緑と時々空。
 方向感覚が見事に狂ってしまう。
 その中でたかだか一枚の紙切れである履歴書を探すと言うのも酷な話だ。
 絶対に見つけてやる! と意気込んで下りて来たものの、ものの数分で挫折しかけていた。
 これは、もう天が俺に働くな! と言っているに違いない。きっとそうだ。
 そんなわけで、もう少しニート生活満喫するかなーと、だらけたことを考えながら背後に聳える病棟の屋上を見上げた。
 ガキ置いてきちまったけど大丈夫だろうか?
 体は小さいし痩せているから頼りなく見えるが、あれで小学校に上がる前だとか言っていたから、そこまで心配する必要もないだろう。
 1人ならともかく、毬藻のガキもいるんだし・・・・・・。
 だが、それでも気になってしまうのだ。
 本当に親にでもなったような気分だと苦笑しながら、履歴書は諦めさっさと屋上に戻ろうと踵を返せば、ふと甲高い、女のヒステリックな叫び声が聞こえて来た。
 何だ?
 どうやら喧嘩をしているみたいだが、ずっと女の方の声だけが続いていて、罵声を浴びせられているはずの相手の声は聞こえて来ない。
 一方的に女の方が怒っているらしい。
 修羅場か?
 人の不幸は蜜の味・・・自分の修羅場だったら勘弁だが、人の修羅場を見るのは案外楽しかったりする。
 自分でも悪趣味だとは思ったが、思わず気になって声のする方に歩を進めてしまった。
 幸いにも庭は緑で囲まれているので、茂みの影に身を潜める。
 中庭のベンチの傍で若い男と女が何やら言い合っていた。
 ・・・と言っても、女の方がやはり一方的にきゃんきゃん喚いているだけのようだ。
 女の顔はよく見えなかったが、男の顔は見えた。
 横分けにした黒髪を長く伸ばし、後ろで緩く結っている。
 精悍な顔つきをした男で切れ長の目はどことなく冷たい印象を与えたが、なかなかの美男子だった。
 いかにも女にモテそうな面をしている。
 しかし、どこかで見たことのある顔だ。だが、それがどこだったのか直ぐには思い出せない。
 女が喚きたてている話の内容を聞いていれば、男の方が浮気をしただとか何とか。本当かどうかは分からないが、男の方は黙ったまま女の言い分を聞いている。
 しかも女はそのうち、この間女と歩いているところを見ただの、話しているところを見ただの。
 自分以外の女に話かけるな、自分以外の女を見るな。携帯から自分以外の女の履歴を消せ!
 ドンドン要求がエスカレートしていく。
 あまりにも一方的な女の言い分に、流石にこれは女側の被害妄想なんじゃないだろうかと、自分に当てられたものではないのに、何となく不快な気持ちになって来た。
 そもそも、これだけ言われて大人しく黙ったまま女の言うことを聞いている男も男だ。
 浮気をしたのが本当なら、しおらしくしているのも納得出来るが、言い訳の1つもして良さそうなものだ。
 だが、その男は1つも言い訳することなく、ただ小さくうんざりとしたような溜息を吐いただけだった。
 それが余計に女の逆上を煽ったらしい。
 パン! と小気味のいい音が響き渡った。
 女の方が男の顔を平手打ちしたのだ。
 よくドラマなんかで見る光景だが、実際に目の当たりにしたのは初めてだった。
 女はそれで清々したのか、男の前をさっさと去って行ってしまった。男の方に追いかける素振りは見られない。
 選りを戻したいのなら言い訳の1つもするだろうし、甘いフォローの言葉でも吐くだろう。それをせず、追いかけもしないと言うことは、男の方にはあまり気が無かったのかもしれない。
 さーて、面白いシーンも見たし、そろそろ屋上に戻るか・・・と、その場を立ち去ろうとした時だった。
「そこの覗き見男」
 声がかかった。
 どうやらバレバレだったらしい。
「悪いな、見ちまった」
 下手に逃げるのも見っとも無かったので、大人しく茂みの中から顔を出す。
 男はまた1つ小さく溜息を吐いた。
 覗き見していたことを怒られるのかと思いきや、男は1枚の紙切れを差し出してくる。
 何だ? と思えば、俺が探していた履歴書だった。どうやらこの男が拾ってくれていたらしい。
「おーーー悪い悪い。よく俺のだって分かったな?」
 履歴書にはまだ顔写真を貼りつけていない。
 なのに、何で分かったんだ? と首を傾げ、改めて男の顔を真正面から見据えれば、どこかで見たような顔をどこで見たのかあっさりと思い出した。
「あーーーー、お前、大学切っての天才とか言われてた奴だろう! 何でも歴代で一番IQが高いとか何とか・・・」
 大学に入りたての頃、同級の女達がきゃあきゃあとよく噂をしていたのだ。
 頭脳明晰、育ちも良し、顔も良し。性格はどうだか知らないが、クールで完璧な男前がいるとか何とか。
 確か俺が大学に入った時には、もう4年の先輩だった気がする。女共がそこまで言う男がどんなものかとわざわざ興味本位、嫉妬満々で覗きに行ったこともあったのだ。
 卒業後は大学院に進んだとか聞いていたが、そもそもそんな賢い男と接点など一切無かったし、俺の周りに集まるのは何故だかバギーを始めとしたバカばっかだ。
 知人でもないし、顔見知りでもない。
 ただ同じ大学に在籍していた先輩と後輩でしかないこの男が、どうして俺のことを履歴書を見ただけで直ぐに分かったのだろうか?
 そのことを尋ねれば、あっさりと「お前もある意味で有名だったから」と返答が返って来た。
 有名? さっぱり記憶にない。
「女子更衣室を覗く。教授に悪戯を仕掛ける。人の弁当を勝手に食う・・・・・・。学祭にミスコンを提案したのはいいが女が集まらなかったからと言って、その辺の男を捕まえて無理矢理女装させて出させるわ、服が雨に濡れたからと言って学内をパンツ一丁で歩き回るわ・・・・・・」
 しかし、あっさりと罪状を並べ立てられて、ウッと言葉に詰まった。
 まあ、確かにそんなことをしたこともあったような・・・なかったような・・・。
「あれ~、そんなに有名になってた、俺?」
 最早苦笑しか出て来ない。
「でも、可笑しいなぁ・・・ミスコンに男を出したのは周囲にはバレてないはずなんだけどなぁ・・・・・・あれって、俺の独断だったし、無理矢理捕まえて出場させた奴は、皆そのことバレたくなくて自分から言いふらさないだろうから、敢えて口止めする必要もなかったし・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・あ、もしかしてお宅、あの時の迫力ありすぎる黒髪のごっつい美じょ・・・ごふっぶへば・・・」
 男の肘が腹にめり込んだ。
 軽く咳き込みながら涙目になって腰を折り曲げ、黒髪の男を見上げる。
 怜悧な美貌が凄みを利かせると、あら怖い。
 何だか触れてはいけない話題だったようなので、思いがけない攻撃を食らったことはこの際、目を瞑るにして・・・・・・。
「それにしても、あんたみたいに完璧な奴でも女にフラれることってあるんだな」
 いや、この話題もある意味触れてはいけないことだったかもしれない。
 鋭い目に思い切り睨まれてしまった。
「悪いか?」
「いや、別に~。周りからIQ高いすごい奴だって持て囃されてても、基本は俺なんかと変わらない同じ人間で男なんだよなーって」
「バカにしてるのか?」
「何で? そう言う風に聞こえたか? 俺は純粋に感動してんだよ。嬉しいんだ」
 ニッと笑ってみせれば、今一表情の変化に乏しい男の顔は、鳩が豆鉄砲を食らったようなものになった。






*********************


「お腹空いたの?」
 黄色い頭が尋ねて来た。
 そう言えば、今日はまだ朝から何も食べていないことを思い出し、毬藻頭は頷く。
 黄色いのはきょろきょろと周囲を見回し、とことこと駆けてフェンスの下辺りに置いてあった紙袋を運んで来た。
「何だそれ?」
「お弁当」
 ゴソゴソと紙袋の中から大きな重箱を取り出す。
 蓋を開ければおにぎりにサンドイッチ。唐揚げやハンバーグなど、子供には嬉しい料理が犇めき合っていた。
 思わずそれを見て、またグゥとお腹が鳴った。
「食べる?」
 黄色頭に尋ねられて、本当か! と目を輝かせたものの、さっきの赤髪の大人も戻って来ていないのに勝手に食べてしまってもいいものだろうか?
 しかし、空腹の前に、美味しそうな弁当を披露されたのでは、内心の葛藤などあっさりと食べ物の匂いに掻き消されてしまう。
 コクンと黄色い頭が頷いたのを見て、毬藻はおにぎりを手に取り、一気に口に頬張った。
 朝から何も口にしていないせいもあるかもしれないが、一口、口にしたら、あれも、これもと食べたくなる。
「何だこれ、すげーうまい!!」
「すげー?」
 首を傾げた黄色頭に、毬藻はもう一つ手に取ったおにぎりを差し出した。
「お前は食べないのか?」
 お前の弁当だろう? と言ってみるが、黄色いのは首を振って、おにぎりを手に取ろうとはしない。
「腹減ってねえの?」
 尋ねた瞬間、きゅるきゅるとお腹が鳴った。
 今のは自分の腹の音じゃないぞ? と毬藻はもう一度おにぎりを黄色いのに突き付ける。
「腹減ってるのに何で食べないんだ?」
「食べるとおいしいから」
「は? うまいなら食べればいいだろう?」
「悲しいのに、おいしいはダメ・・・・・・」
「何でだ?」
 毬藻に尋ねられて黄色頭は口を閉ざした。そうして、弁当箱の置いてあるコンクリートの地面を見る。
「・・・・・・だって・・・・・・・・・・・・」
 何かを言おうとした口はそれ以上言葉を綴らなかった。
「お前の言いたいことも分からないでもないけど」
 その代わり毬藻が続けた。
 バッと顔を上げた黄色頭の目の前で、今の今まで差し出していたおにぎりをあっという間に毬藻は自分の口の中に押し込んでしまう。
 頬袋を膨らませてもごもごと咀嚼し、ゴクリと呑み込んだ。
 その顔に不意にまた涙が伝う。
 黄色頭は驚いた。
 行き成りまた泣き出した毬藻にどうしてやればいいのか分からず狼狽える一方なのに、毬藻は気にした様子なく、今度は唐揚げを手に取る。
「俺は悲しいけど、ちゃんと食う」
 唐揚げを口に放り込み、今度は玉子焼きを手に取った。
 玉子焼きの次はウインナー・・・そしてハンバーグ。今度はサンドイッチ。
 食べ続けながらも、ぼたぼたと毬藻は涙を落とした。
「泣かない・・・・・・で・・・・・・」
 黄色頭が言った。
「泣いてねえ!!・・・・・・って、何でお前が泣くんだよ!!」
 大きな目が涙で潤んでいた。
 今にも零れ落ちそうなほど涙の存在は大きいのに、不思議なことにそれは零れ落ちようとしない。
 涙が零れないように必死に堪えているんだろう。
 そうしたところで、瞬き1つすれば、それはあっさりと零れ落ちてしまうのに。
「ほら、お前も食え!」
 毬藻はもう一度、黄色頭に食べ物を突き付けた。
 さっきのおにぎりは受け取らなかったので、もしかして嫌いなのかもしれないと思い、今度はサンドイッチにしてみた。
 それでも黄色頭はそれを受け取らない。
「何で・・・悲しいのに食べるの?」
「何でって・・・・・・だって、腹は減るんだ。昨日まで一緒にいた奴がいなくなっても、太陽は上がるし、1日も始まる。腹も減って、目も覚めて、俺の周りの奴等はいつも通りに動いてる。うまいもんはうまいし、まずいもんはまずい。何も変わらない。俺はこんなに苦しいのに、何も・・・・・・」
 カワラナイ。
 見上げた空は相変わらず青いし、そこにある太陽も相変わらず眩しく明るい。
 日差しはとても温かくて心地よく、時々吹き付ける強い風が桜の花びらを屋上の高いところまで巻き上げた。
「お前だって、そうだろう?」
 コクンと黄色い頭は頷いて、毬藻の手から漸くサンドイッチを取った。
 一口・・・サンドイッチを齧ってみたけどあまり味がしなかった。
 それどころか何だか喉元が詰まって重苦しい。その重苦しさをサンドイッチと一緒に呑み込んでしまおうとするのに、もごもごと動かす口がうまく食べ物を噛み砕かない。
 徐々に口が痺れてきて、ついに咀嚼する動きが止まった。
 喉元から上がってくるツンとした熱い塊が鼻を上り、目の部分で詰まってチリチリと痛む。
「な、うまいだろう?」
 毬藻の問いに黄色い頭は頷いた。
 全然おいしいとは感じなかったけど、頷かなければいけない気がしたし、実際はとても美味しいものなんだと思う。
 毎日毎日、自分を引き取ってくれた人がああでもない、こうでもないと言いながら、夜遅くまで自分のために沢山の料理を作ってくれていたことを知っていたからだ。
 知っていたから、口にする。
 だけど、口にすれば全部吐いてしまった。
 鳩も、沢山食べて大きくなったらまた会えるって言った。
 だから、食べる努力をしたけど、やっぱり吐いてしまう。
 食べると苦しい。
 苦しいのに、やっぱり食べ物は自分の目の前に差し出されるし、美味しそうな匂いも湯気も立っていた。
 温かいとか、美味しいとか、嬉しいとか、楽しいとか。
 全部全部、感じる度にとてつもなく悲しくなった。
「・・・・・・だって・・・・・・またいなくなる」
 黄色頭は、さっき言えなかった言葉の続きを押し出した。
 何かを感じる度に、それはまた消えて無くなってしまう知らせのようなものだと・・・・・・。
「でもさ、お前の傍にはまだ誰かいるだろう? さっきの赤い奴とかさ・・・」
 赤いの・・・・・・。
 そう言えば、赤いのはどこへ行ってしまったのだろう?
 急に不安になった。
 きょろきょろと見回すがどこにもいない。
 いなくなってしまったのだろうか?
 またここに自分1人を置いて・・・・・・。みんな、みんな、置いて行く。
 いつか、いつだって、一緒にいるって言ったのに、人は人を1人にしていく。
「赤いの・・・いない?」
 ボロボロと涙が零れ落ちた。
「だーかーら、何でお前が泣くんだよ!! 今、悲しいのは俺なんだ! お前は泣くな!」
 毬藻が怒った。
 怒ったけど、おにぎりを食べた後の手で軽く叩くように、撫でるように、頭に触れてくる。
 おかげで髪の毛にご飯粒がくっ付いてしまった。
「いなくなっても、また誰かがいる。赤いのは今いないけど、お前の傍には今俺がいるだろ? いなくなった奴は戻ってこないかもしれないけど、また別の誰かが一緒にいてくれるんだって師匠が言ってた。だから、泣くな!」
「それでも、誰もいなかったら?」
「自分で探せばいいだろう?」
「探しても見つからなかったら?」
「う~ん、その時は俺がいてやる」
「本当に?」
「本当だ! 約束する」
「約束?」
「絶対に守らなきゃいけないってことだ。だから、お前はその代わり、食え!」
 今度は玉子焼きを押し付けられた。
「これ食ったらお前、共食いだな」
 さっきまで怒っていた毬藻が今度は笑った。
「食わないと、ただでさえお前細いのに、もっとひょろひょろになって、さっきのでっかい風に飛ばされちまうだろう」
 飛ぶのは少し魅力的だと黄色頭は思ったが、目の前の玉子焼きはとてもおいしそうだったので噛り付いた。
 今度はちゃんと味がした。
 甘くて、だけどほんの少しだけしょっぱい。
 さっきのお返しとばかりに毬藻が頬を拭ってくれて、そう言えば泣いたんだってことを思い出した。
 しょっぱいのはきっと涙の味だ。
 涙を流すのはとても辛いけど、その味が今はほんの少しだけ温かい。
 ここは高いところにあるから、その分だけ近い太陽の熱に温められたのかもしれない。


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