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雪暗れ永久の迷い星

2013.02.15 20:00|Novels


「ぽっぽっぽー、はと、ぽっぽー」




 雪暗れ永久の迷い星





 養護施設の裏手に小さな庭があった。
 表側には広く大きな庭があったのだが、そっちの方は上級生が占領していることが多い。
 何よりあまり騒がしいところの好きではなかった俺は、よく人目を避けるように小さな裏庭の方に足を運んだ。
 こじんまりとした家庭菜園があるぐらいで子供が遊ぶだけのスペースもない。
 午前中は日当たりもいいのだが、大抵学校から帰ってくる午後の時間帯には、養護施設の大きな建物が邪魔になって、西日の1つも入り込んで来ない。
 なので、午前中、学校で過ごすことの多い子供達にとって、そこはどちらかと言うと日当たりの悪い、暗くジメジメとした陰気な場所だった。
 特に冬場ともなると、2、3日前にうっすらと積もる程度降った雪が隅っこの方にまだ存在を残しており、寒さをより強く感じると言う理由で、ほとんど近づくものはいなかった。
 誰だって、例え温度の低い冬場の夕日であったとしても、その色を少しでも浴びて遊ぶ方が楽しいに決まっている。
 だが、俺は大人達から見ても、周囲の子供達から見ても、少し変わった子供だったようで、「そんな暗いところにいないで、こっちで遊ぼうよ!」と言った声を悉く無視し、裏庭の暗がりで本を読んでいることが多かった。
 そして、この時俺は、同年代の子供と一緒にキャーキャー騒いで遊ぶよりも、裏手の公園付近からよく迷い込んでくる鳩を相手にしている方が好きだった。
 なので、放課後の遊び相手と言ったら、鳩一択。
 そこからついたあだ名は見事にそのまんま「ハト」だったが、あまり気にしたことはなかった。
 その頃の俺には鳩さえいれば友達なんていなくても構わなかったし、逆に言えば鳩と一緒にいる空間だけは、誰にも邪魔をされたくなかった。


 だから、その日も俺は、学校が終わったら直ぐに図書館で借りた英語の本を持って、裏庭に足を運んだ。
 表の広い庭では下校時間の早い下級生が、上級生が帰宅するまでの間、小さな体に不釣り合いな大きなボールを持って、ドッジボールなのか、サッカーなのか、よく分からない遊びをしている。
 まだ小学校へ上がっていない、より幼い子供達は、最近の急激な冷え込みで少々体調を崩しがちの者が多く、室内で大人しく人形遊びやら、絵本を読むやらと、していた。
 何にしろ、寒い裏庭にわざわざ読書をするために足を運ぶのは俺ぐらいで、裏庭の暗がりの中で遊びたがるような奴もいなければ、まだ夕刻だと言うのに、今にも夜がやってきそうな薄暗さを好む奴もいない。
 裏庭の菜園に植えられた小ネギを取りに来る調理担当の大人が、たまに姿を見せるぐらいで、俺は心置きなくその日も1人で読書を堪能出来るはずだった。
 だが、裏庭に続く、少々子供の手では開けにくい、すっかり蝶番が錆びきってしまっている戸を開けた途端、童謡を歌う声が聞こえてきたのだ。
「ぽっぽっぽ・・・」
 誰もが一度は耳にしたことがあるはずの、鳩の歌は、歌詞も音楽も単調で覚えやすいものだったが、それを歌っている奴はずっと最初の部分の同じフレーズを繰り返し歌っていた。
「・・・ぽっぽっぽ・・・はと、ぽっぽ・・・」
 その部分しか知らないのか。それとも、続けて歌う気がないのか。
 周囲を見渡して声の出所を探してみれば、選りにも選って、まだうっすらと雪が残る建物の影に小さな体が蹲っていた。
 暗い中でも、髪の色が明るかったので直ぐに目についた。
 珍しい色だ。
 施設内でも、学校内でも、俺はそれと同じ色を今までに見たことがなかった。
 完全に金髪だったのだ。
 外国人?
 そうとしか思えなかった。
 この頃、将来海外に行くことを夢の1つにしていた俺は、こっそり期待に胸を膨らませた。
 もしそいつが外国人で英語を喋れるのなら、単純に会話法や、自分の知らない国のことを教えてもらおうと思ったのだ。
 施設育ちの自分には英語を専門的な塾に習いに行くなんて選択肢は用意されておらず、この頃は義務教育内での英語教育もまだ進んでいなくて、せいぜいアルファベットを習うぐらいだった。
 なので、図書館で英語の本を借りたりして独りで学んだのだが、言葉の意味などはともかく、発音や文法などを独りで取得していくのは流石に難しかった。
 自分の認識があっているのか、間違っているのかも分からず周りの大人に聞いてみたりもしたが、英語を外国人程、ペラペラに話せる大人は、学校の教師の中にもいなかったのだ。
「ぽっぽっぽ・・・」
 ずっと鳩の歌は繰り返されている。
 ・・・と言う事は、日本語は話せるのだろう。
 ドアの開く音ぐらいは聞こえただろうに、そいつはこっちを見向きもしない。
 何をやっているのかと近づいてみれば、小さな手から食パンの屑が零れ落ちていた。
 それを狙って飛んで来た鳩が、1羽、2羽と徐々に増えて行く。
 子供であるなら喜ぶ光景だろうに、お世辞にもあまりうまいとは言えない不思議なリズムで、鳩の歌はどことなく奇怪に続いている。
 この施設では、身よりのない沢山の子供が同じ場所で一緒に生活をしているが、覚えられない程、人数が多いわけではない。
 中には子供のいない夫婦に引き取られていく子もいたりして、最近は忽然と消えてしまう顔も多くなった。
 当然消えた分だけ、また新しい子供が入って来たりもする。
 金髪の子供がいたら直ぐに目立って覚えてしまうだろうから、もしかしたら新入りなのかもしれない。
 まだ、幼く、小学校に上がる手前ぐらいの、小さな小さな子供だった。
 自分も子供なのだから、子供が子供と言うのは不自然だが、少なくともここにいる誰よりも痩せていて、体も小さく見えたのだ。
 自分とは全く違う生き物のようなそれは、俺が近づいても顔の1つも上げはしなかったのに、足音に気付いた鳩が驚いて飛び上がり、その中の1羽が俺の肩に止まった途端、弾かれたように顔を上げた。
 大きな目が俺を見て、肩に止まった白い鳩を見た。
 ずっと繰り返されていた鳩の歌はぷつりと途切れたが、その口から言葉が落ちることはなく、ただ不思議そうに首だけをそいつは傾げた。
「何・・・やってるっポ?」
 仕方なくこっちから声をかけてやる。
 ただ、あまり喋ることが得意ではなかった俺は、何となく幼い頃からずっと密かに練習していた腹話術で話しかけた。
 幸いにも、俺の肩に幼少の頃からずっと一緒にいる白い鳩が乗っかっていたせいで、そいつは見事に鳩が喋ったものだと勘違いしてくれたらしい。
 一瞬、目が子供らしく輝いたのが分かった。
「はと・・・見てた」
 どこかたどたどしい口調でそいつは漸く口を開いた。
「ハトが好きなのか?」
「分かんない」
 そいつは緩慢な動作で首を振る。
 反応は返すが、表情があまり無いせいか、その顔は室内で女の子達が手にして遊んでいた人形のそれにもどこか似ていた。
 ただ、人形は綺麗に整った顔立ちをしていてどこにも可笑しな点などないのだが、そいつは眉尻がどう言う原理なのか、クルリと渦を巻いていた。
 まあ、俺自身も眉の形が少々特徴的なので、そのことをからかわれることもあったのだが、自分のそれが可愛いものだと思える程、愉快で奇妙に愛嬌のある眉毛だった。
「じゃあ、何でハトを見ていた?」
「沢山いるから」
 沢山と言っても、たかが数羽だ。
 そのハトも、何度か首を動かしながら近づいたり、遠ざかったりを繰り返していたが、餌が貰えないと知るや、空へ羽ばたいていってしまった。
 別に子供として普通の回答だったのかもしれないが、この時、俺は何となくそいつの応えに腑に落ちないものを感じていた。
「人も、沢山いるだろう?」
 新入りだったとしても、建物の中に入れば、ハトなんかより、自分と同じ年頃の子供がここには沢山いる。
 いや、むしろ新入りであるからこそ、こんな薄暗く寒い場所で、小さな子供が1人で蹲っているなどと言う光景は可笑しいと、思ったのだ。
 どんな場所でだって、新参者は最初のうちは人の輪に囲まれ、その中心に持ち上げられるものである。
 俺自身にもその記憶がある。
 なのに、何でこいつはこんな場所に1人でいるのだろうか?
 たどたどしく、リズムにも乗れていない童謡を繰り返しながら、どうしてハトを見ていたのだろうか?
 自分と重ねるわけではないが、どことなく近いものがあるような気がした。
 ここの職員だって、入ったばかりの子供をこんなところに放置している時点で、何か事情がありそうだとも思う。
「人は・・・置いていくから」
 ポツリと、答えが返った。
 その応えに思わずゾクリと肌が粟立つ。
 思わず自分の肩の上に大人しく止まっている鳩の存在を確認してしまった。
 ちゃんと、そこにいるだろうか? と言う一瞬の不安は、白く柔らかな羽毛が頬に掠ったことで直ぐに霧消していく。
 それでも、いつかこの鳩ですら、人と同じで自分を置いて行く日はやはり来るのかもしれない。
「ハトもずっと一緒にいるとは限らないだろう?」
 きょとんとした目が、俺と鳩とを見比べた。
「でも、今は一緒だ」
 単なる幼い子供の、訳の分からない回答だった。
 だけど、俺は何故かその答えを酷く気に入った。
「俺の唯一の家族だ」
「家族?」
「ああ・・・」
「他にはいないの?」
「知らない」
 いる、いない、ではなく、敢えて「知らない」と返したのは、本当に知らないからだ。
「お前は?」
「”はと”と一緒」
 ずっと無表情だった顔がニコリと笑った。


 




 やはり、そいつは新入りだったようだ。
 外人の血が混ざっているのは確からしいが、残念なことに俺が期待したよう、そいつは英語など全く話せなかったし、ここ以外の国の話も知らなかった。
 それどころか、自分のことは何一つ話そうとしない。
 更に、俺の前ではほんの少し笑みを見せた顔も、他の子供達の前に出ると何故か一気に強張ってしまう。
 極度の人見知りなのか、それとも何らかの事情があるのか、その時の俺にはよく分からなかったが、周囲の大人達がしていた噂話はあまりいいものではなかった。
 そいつが来て以来、子供の耳には聞き慣れない言葉が頻繁に施設内の職員の口から漏れていた。
 どうせ子供には分からないだろうと、大人は思っていたのだろう。
 確かに俺はそれが何を表しているのか詳しくは分からなかったが、自己流に英語を学んでいたせいで、その言葉が持つ大体の意味は分かってしまった。
 それでも、こんなところにいる以上、皆、何かしらの事情を抱えているものだ。
 なので、そいつだけに同情が集まることも、贔屓されることもなく、ここではどんな子も、あくまでも平等に扱われた。
 俺自身も、昔はそれなりに同情の視線を集め、世間的に注目されたこともあったらしいが、赤子の時のことなどほとんど覚えていないに等しい。
 それに人の噂など直ぐに消えて無くなってしまうものだ。
 俺も変わりものだったが、そいつも俺と張るぐらいの変わりものだった。
 あまり同年代の子供達の輪に入って遊ばず、やはり気が付けば裏庭の暗がりで1人何をするでもなく蹲っていることが多かった。
「遊ばないのか?」と聞いたら、不思議なことに「遊び方が分からない」と返って来た。
 子供だった俺には、やはりその返答に含まれている深いところの意味など全く分からなかった。
 ただ、何となく、学校の教師が口にしていた「学校が終わっても習い事や塾ばかりで、友達との遊び方どころか、声のかけ方すら分からないと言う子が最近増えている」と言った、幸せなのか不幸せなのかよく分からない状況に似ているのだろうかとも思った。
 変わり者同士、ただ何となく俺達は仲良くなった。
 仲良くなったと言っても、俺はいつものように裏庭で本を読み、そいつもいつものように、ただ蹲っている。
 時々、公園の方から飛んでくる鳩の群れをその目は追い、パンくずの乗った手をおずおずと差し出す仕草は、最初こそぎこちなかったものの、徐々に手慣れたものになっていった。
 特別な会話をするわけでもなく、時々一緒に鳩にそうして餌をやったり、いつも俺の肩に乗っかってくる白い鳩に触ろうとしてみたり。
 最初の頃に、腹話術を披露して見せたのがいけなかったのか、そいつは俺のことを「はと」と呼んで、本名で呼ばれたことはなかったし、俺もそいつの名前を知ってはいたが、口に出してその名を呼んでやったことはなかった。
 年の差も少しあったせいか、結局年上だった俺が、そのうち新入りだったそいつのお守りをすることになっていた。
 そいつは、我が儘を言うガキではなかったが、口数が少なく喜怒哀楽にも乏しいせいか、職員ですらそいつの本心を見抜くことは出来なかったようだ。
 何とかそいつを同年代の子供達の輪の中に入らせようとする動きもあったようだが、何れもうまくはいかなかったらしい。
 結局そのうち諦めたのか、唯一裏庭で一緒にいることが多いと言う点だけを持ち上げられて、お守り役が回って来たに過ぎない。
 泣き喚くこともなく、駄々を捏ねることもなく、手のかからないガキではあったが、そいつのことで唯一職員が頭を悩ませていたのは、食が圧倒的に細い面だった。
 痩せた子供だと言う認識は俺にもあった。
 何せ、そいつの腕や足は驚く程細かったし、食べる量も、下手すれば鳩の方が食べるのではないかと言う程だった。
 だから、お守り役を任された時に、職員の女性の手から何度か他の奴等よりも多めのオヤツを握らされ、何とかそいつに食べさせてほしいと頼まれたこともあった。
 
 


 一緒にいた期間はそう長い間ではなかった。
 俺は4年に上がる頃に、引き取り手が見つかり施設を離れることになったからだ。
 引き取り手は施設内でも頭のいい子を探していたらしく、テストの点もほぼ毎回満点で、独学で英語まで身に着けようとしていた俺が直ぐに選ばれた。
 引き取り手の男との対面を果たした日に、俺はそのまま直ぐに施設を離れることになった。
 長く暮らした施設を離れるからと言って盛大なお別れパーティーが開かれるわけでもなく、こう言った別れは、子供が1人忽然と消えて行く神隠しにも似た現象と同じように、あっさりと日常の中に紛れ込んでしまうのだ。
 だから、俺は誰に別れを告げる暇もなかった。
 学校も変わることになったが、友人の誰にも引っ越し先の1つ、告げることも出来ずじまいだった。
 

 その年の冬は寒さが際立ち、3月末の春に入り込んだ時期だったのに、まだ寒さが続いていた。
 雪暗れの空はどこにもない晴天だったが、風花が舞っていた。
「はと!」
 大きな声が、俺のことを呼んだ。
 その呼び名で学校では散々からかわれたこともあったが、そいつが俺のことをそう呼ぶのは不思議と嫌な気がしていなかった。
 嘲笑や侮蔑の色が一切篭っていなかったからだろう。
 黒のサングラスとコートを羽織った長身の男に手を取られて、施設を去ろうとしていた俺を、そいつは目敏く見つけたらしい。
「どこ行くの?」
「あららら、友達か?」
 俺の引き取り手となる男の問いに俺は首を振った。
 友達と言う程、友人関係を築けていたわけでもなく、歳にも結構差があったせいで一緒にいることが多くても、周りからそう見られたことはなかった。
 それでも、その男は真っ先に「友達か?」と聞いてきた。
 そのことが少しだけ、見知らぬ不審な引き取り手の男を気に入るきっかけにもなった。
 友達・・・と言うより、弟のようなものだったのだろうか?
 自分には兄弟などいなかったから、その感覚は全く分からなかったが、他に相応しい言葉も俺は知らなかった。
 施設を離れて遠くへ行くと告げたら、大きな目が瞠って、一瞬泣き出しそうに歪んだ。
 だけれども、そいつの目から涙は零れなかった。
 きゅっと唇を引き結んで、「分かった」と素直に頷いた。
 喜怒哀楽の乏しいそいつにも、やはり悲しいとか寂しいと言う感情はあったらしい。
 小さく落ちた肩のちょっとした震えを見た瞬間、何もこいつは感情を表に出せないのではなく、わざと出さないようにしていたのだと気付いた。 
 その肩に俺は、自分の肩の上に大人しく乗っかっていた白い鳩を、乗せてやった。
「少しだけ俺の家族を貸してやる」
 そう言えば、幼い目が瞬いて、戸惑ったようにしながらも、白い毛並を撫でた。
 そいつが鳩を撫でるように、俺もそいつの頭を急に撫でてやりたくなって、不慣れながらも黄色い小さな頭に触れてみた。
 その髪の毛は鳩の毛と同じように柔らかくて、温かかった。
 生まれた時から鳩だけしかいなかった俺の世界に、初めて人が、この時入り込んで来た。
「ちゃんと食え・・・」
 そいつの、他の何も心配してはいなかったが、一向に痩せた体が太らないことや、食の細さはずっと気になっていた。
 そいつは従順にコクリと首を頷けた。
 本当に俺の言葉に従う気があるのかどうかは分からなかったが、それが、その場凌ぎの、聞き分けのいい子を気取った嘘であったとしても、俺はその嘘を信じただろう。
「食べて大きくなったら、また会える」
 だから、別れ際、そいつだけに俺はそんな確証も何もない言葉を残した。
 そいつの肩に止まっている鳩に手を伸ばせば、鳩は名残惜しげにしながらも、その肩から離れて、俺の肩に戻って来た。











 そいつと再会したのは、その別れから大分経った頃だ。
 偶然だったのかもしれないし、必然だったのかもしれない。
「鳩が好きか?」
 そいつが、俺のことを覚えているかどうかは分からなかった。
「別に・・・。何か用?」
「お前が売りをやっていると言う密告があってな。本当か?」
「さあ・・・」
「退学になりたいのか?」
「それは困る」
 そいつは何もいない小屋の前で蹲ったまま、その周りに集まり始めていた鳩の1匹に手を伸ばして、うっすらと笑った。
「俺さ、卒業だけは絶対にしないといけないわけ」
「何故だ?」
「負けたくねえ奴がいてさ。留年とか退学とかになっちまうと自動的に負けたことになっちまうし、それだけは勘弁って言うか」
 その手は餌も何も持っていないのに、鳩はそいつの手に懐いて頬を摺り寄せた。
 それに満足したのか、そいつは漸く立ち上がって視線を俺に合わせてくる。
「だから、見逃してくれよ、な?」
 だからと言われても、教師の俺が、はい、そうですか・・・と見逃せるわけもない。
 そもそも、うまく誤魔化せばいいものを、それでは何の確証もない密告を肯定しているようなものだ。
 言葉ではなく、憮然とした溜息で返してやれば、何を思ったのかそいつは俺の肩に腕を回して来た。
「ああ、そっか・・・あんたを共犯にすればいいんだ?」
 そのまま唇を押し付けられる。

 あの日のように風花の舞う晴天の空は無く、雪暗れの重たい空の下だった。








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 行き成り過去に飛びましたが、妙に重苦しい話になりました。
 鳩編を真面目に書こうと思って書き始めたら、どうしてかこうなった。
 頭にあったのは、意外性狙った純愛と、それでいながら酷いこともきっちりとやる鬼畜性なんですが(え
 そんなわけで、次は鳩みるk(もごっ
 

 
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