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リセットボタン3

2012.10.26 22:59|Novels
 どうして自分が行き成り小さくなってしまったコックに懐かれる羽目になったのかはよく分からない。
 チビコックは直ぐに船の仲間達とは打ち解けた様子だったが、やはり骨にはまだ抵抗があるようだ。
 ブルックを見かけると必死に強がった素振りを見せながらも、ゾロの傍にすかさず寄って来ては腹巻きを掴んでくる。
 怯えた目は丸分かりなのに、口では頑として「あんなの怖くない」と繰り返す。
 そう繰り返すことこそが怖がっている証拠だろうと、こっちから見ればバレバレなのだが、子供の思考ではそこまでの考えは出て来ないらしい。
 仲間の1人が身体的にも、精神的にも完全に子供になってしまったと言う不可思議な現象が起こっていると言うのに、船の仲間達はトラブルに慣れたものであまり気にしている者もいないようだった。
 ゾロも、そこまで気にしているわけでは無い。
 むしろナミ達の言うように、チョッパーが体にはどこにも異常はないと言う以上、放っておけばそのうち元に戻るだろうとも思う。
 だが、あまりにも自分にくっ付いて来られるので、ゾロの調子は狂いっぱなしだ。
 別に子供に振り回されるようなタイプではないし、煩わしいとも思わないが、相手が普段から仲の悪いあのコックだと思えばこそ、今の懐かれた状態が気持ち悪いのだ。
 チビコックは仲間達に可愛がられている。
 いつ戻るかも分からないから着替えもそれなりに必要だろうと言うことになり、ナミとロビンがさっさと布地を見立てて来て、ウソップが子供用の服を幾つか作っていた。
 さっきからコックは着せ替え人形状態だ。
 いろんな服をあれこれ着せられることにも慣れていない様子で、きょときょとと青い目を忙しなく躊躇ったように動かしている。
 何か文句を言いたそうな顔をしているのに、どうやら子供であってもナミとロビンには逆らえないようで、黙り込んだまま大人しく服を着せられていた。
 女に対するあの態度は子供の頃から女好きだと言うよりは、むしろ女性にあまり慣れていないのではないだろうか?
 まあ、確かにコックが身を置いていたあのレストランのコック連中は、皆が皆、荒くれた男共ばかりだったわけだから、女性に免疫がないとしても不思議はない。
 着せ替えごっこが終わったかと思えば、ルフィとチョッパーに今度は捕まったらしく、直ぐにチビコックも交えた3人でワーワー騒ぎ始めた。
 チビコックは芝甲板にあるブランコがどうやらお気に召したらしい。
 チョッパーはともかく、うちの船長の精神年齢はどうやら、10歳やそこらのチビコックと同等らしい。
 それどころか、夕方が近くなると、そそくさとキッチンに篭って夕食の支度を始めようとするところあたり、下手すれば17歳のルフィよりも、幼いコックはやはりしっかりしていた。
「やっぱり幼い頃からああ言う大きなレストランで働いてたせいかしらね」
 ナミのそんな呟きが聞こえた。



 流石に子供コック1人に夕食の準備を任せるのは皆、気が引けたらしく、それぞれが適度に手伝い、完成した夕食は、やっぱり普通に美味かった。
 いつものコックと同じで、小さいくせに給仕ばかりして回ろうとするコックを捕まえたのはナミだ。
「一緒にご飯食べましょう」と、テーブルにつかせようとすると身長が足りなかったため、ナミが自分の膝の上に乗せようとしたらコックは真っ赤な顔で固まってしまった。
 完全に照れていると言うよりは、やはり女性と言うものに慣れていないのだろう。
 どうすればいいのか分からないと言った途方に暮れた目が、チラリとゾロに飛んで来た。
 ナミやロビンが面白がって、「はい、あ~ん」だなんてことをやってのけるものだから、コックは慌ててナミの膝から降りてしまった。
 いつものコックなら目をハートにさせて喜ぶところだろうが、10歳のコックにとってみれば子供なりの矜持に触るところがあったのだろう。
 フランキーがコック用の椅子を作ってやろうか? と申し出たが、食事の手を止めさせてしまうのは悪いと言ってコックはそれをやんわり断っていた。
 子供のくせに、大人びたことを言う。
 じゃあ、どうするのだろうか? と見ていれば、コックはゾロの隣にやってきて、椅子に腰かけているゾロを見上げて来る。
 そして、あろうことかゾロの膝の上によじ登り始めた。
「俺、ここでいいや!」
 仲間達の目が唖然と集ったのも、俺とコックのいつもの仲の悪さを考えれば当然だ。
 ゾロはシレッと自分の膝に腰かけているコックを追い払おうとしたが、いつものコックならまだしも、相手が子供とあるだけに、何となくそれも躊躇われた。
 まあ、いつものコックが俺の膝に乗ってくるなどと言う気持ちの悪い行動を取るわけもないのだが・・・。
 一瞬、リアルにその光景を想像してしまったことに自己嫌悪を落としながらも、仕方なくゾロは小さなコックに自分の膝を大人しく貸してやることにした。
 これはいつものコックじゃない。
 海賊でもない、ただのコック見習いの小さな子供なのだ。
 どのみち邪険にしてみたところで仲間達の非難の目が集中するだけだ。
 それにしても、興味津々な仲間達の目がどうもうざったい。
 フランキーが気を使って俺の膝に来るか? なんてことをコックに言う。
 コックは少し迷ったようだったが、「ここでいい」と言って、ゾロの膝に座ったまま漸く料理に口を付け始めた。
 チョッパーが何故か羨ましそうな視線をコックに向けているのは、敢えて気付かなかったフリをした。
 あの円らな目に囚われると、どうも自分は弱いのだ。
 それにしても、いい食べっぷりだ。
 考えてみればこいつ、昼は何も食べていなかったようだし、腹が減っていたんじゃないだろうか?
 テーブルの端にある皿をゾロはさり気なくコックの方に寄せてやる。
 さっきから取りたそうにしていたのだが、どうも手が届かないらしく遠慮がちに手前の皿に乗った料理を摘まんでいたのだ。
 コックは口一杯に料理を頬張っている。
 食べている間は案外静かだ。
 見習いコックとして食事中のマナーまで叩き込まれているのだろうか?
 そう言えば、普段はこいつ給仕で忙しく動き回っていて、仲間達が飯を食う時に一緒に席につくことは少ない。
 それを考えると、今自分の膝の上で仲間達と一緒に美味しそうに料理を頬張っているコックを見れるのは案外貴重なのかもしれなかった。
 ゾロは手元の酒を手繰り寄せて一気に煽った。
 すると、食事の手を中断させて、コックがゾロを見上げてくる。
 何だ? と思えば、フォークに刺さった肉をコックはゾロに差し出してきた。
「酒だけ飲んでちゃ胃に悪いんだぞ!」
 小さいくせにやっぱり言ってることはいつものコックと同じだ。
 食え! とばかりに押し付けられた肉を無視するわけにも行かず、ゾロはコックの手にあるフォークに刺さった肉を口に入れた。
 なるほど、案外濃い味付けで酒のツマミにはよく合う。
「美味いか?」
 やはり小さいくせに、いつものコックと同じことを聞いてくる。
 いつもは美味いとは返さないし、素直に頷いたりもしないのだが、今回ばかりはゾロも「ああ」と頷いてやった。
 そうすると、コックはいつだって嬉しそうな顔をする。
 勿論俺の前では滅多に見せることのない顔なのだが、チビになってしまった今ではいつもの険悪ぶりも無効らしく、無邪気な笑顔が何の躊躇いもなく飛んで来た。
「そうだろ、そうだろ!」
 しかも、嬉しそうに体を弾ませて、足をブラブラさせる始末だ。
 これはなかなかに可愛げがある。
 調子に乗ったのかコックは手当り次第、皿の料理をフォークに刺しては全部ゾロに食べさせようと、口の辺りに押し付けてきた。
 これでは酒を楽しむ前に腹が膨れてしまいそうだ。
 もう、これぐらいでいい・・・と、制止の声をかけようとしたところで、ゾロはハッとして顔を上げた。
 仲間達の視線がこれでもかと言うほどのにやつきを持って、こっちに集中し、注がれていたからだ。
「刷り込み現象みたいね」
 1人冷静な顔をしたロビンが言った。
「本当に、珍しいこともあったものだわ。サンジ君が子供になったことより、ゾロに懐いちゃってる方がよっぽど現象としては可笑しいわよね?」
 続けたのはナミだ。
 全く好き勝手言ってくれるものだとゾロは溜息を吐いたが、当のコックはきょとんとした顔をしている。
 よく事態が呑み込めていないのだろう。
 一応、一通りの事情は説明したのだが、コックは作り話だと思っているようだったし、海賊の言う戯言だという判断なのだろう。
「面白がってないで、何とかならないのか?」
「何とかって言われても原因が分からないのよね。明日一応街に行って調べてはみるけど・・・。まあ、いいんじゃない? この機に、あんた達少しぐらい仲良くなりなさいよね!」
 子供のコックと仲良くなったところで仕方がないだろうがと思うが、自分の膝の上のコックが首を傾げまくっている以上、反論しても無駄なことだ。
 どうせ、直ぐに戻るだろう。
 コックは皿の上のスパゲッティを器用にフォークに巻き付けている。





 飯が終わった、各自片付けだ、風呂だと済ませた後は、あっという間に船内は静まり返る。
 まだまだお子様連中が多いせいか、この船の就寝時間は案外早い。
 そもそも船長であるルフィが飯を食ったら直ぐに満足して、毎回直ぐに眠りこけてしまうのだから仕方ない。
 その中を1人、ゾロはいつものように船尾で鉄鉛を振り回して鍛錬を繰り返していた。
 鍛錬中はいつも無心であることが多い。
 そのためか、気付いた時には月も高くなり、仲間達の高鼾が聞こえていると言った状態だ。
 日中に昼寝をすることが多いせいか、夜行性と言う程ではないが、ゾロは夜の方が元気なのだ。
 そう言えば、コックはどうしただろうか?
 食事の片づけが終わった後は、フランキーに踏み台を作ってもらったり、椅子を作ってもらうために座高を計られたりしていた。
 そのうちナミやロビンに引っ張られて、何やら賑やかに慌てた声を上げていたが、あの様子では面白がった女共に一緒に風呂にでも入ろうと誘われたのかもしれない。
 それで一緒に女共と風呂に入ったのかどうかはさておき、コックが子供に戻ってしまったと言うことは、つまり夜間のキッチンは無人だと言うことである。
 コックはこの船の誰よりも夜寝るのが遅い。
 誰よりも働き者であるせいなのだが、昼寝ばかり繰り返して夜間に活動するゾロよりも、たまに床に就くのが遅いこともある。
 つまり、こっそり酒をくすねに行こうとしても、仕事熱心なコックの目が常に夜間も光っていて、おちおち酒を飲むことも出来ないのだ。
 コックに言わせれば、夕食の席であれだけ飲んでおきながら、まだテメエは飲む気なのか!! と言うことらしいが、食事の席で飲む酒と、寝る前に飲む酒では、また一味違ってくるものだ。
 特に鍛錬後の汗を掻いた体を潤すには、やはり酒に限る! とゾロは思うわけだが、あのクソコックは酒じゃなくて水を飲め! と煩い。
 挙句の果てに俺専用のスポーツドリンクなんてものまでいつも作ってきやがるから、ゾロは日に日に酒をかっぱらいにくくなっていたのだ。
 それが、今は誰の目も気にせずに堂々酒をかっぱらいにいけるわけだ。
 ゾロは少し胸を弾ませながら意気揚々とキッチンに向かった。
 するとキッチンの灯りがまだついている。
 もしかしたら俺と同じようなことを考えた奴が、俺より先にキッチンに食料盗みを働きに来たのかもしれない。
 鍵付き冷蔵庫になってからはコックが夜な夜な食料荒らしと格闘することは少なくなっていたのだが、それでもまだ時々懲りない万年欠食児が本気で冷蔵庫を壊しにかかろうとするのだ。
 こりゃ早いところ止めないと、冷蔵庫が壊れでもしたら、どれだけコックとナミが激怒するか目に見えるようだ。
 下手すれば、連帯責任と称して数日食料倹約だの、酒禁止令だのが出されるかもしれない。
 過去にもルフィが手当り次第食料を食い尽くしたせいで、仲間達全員が日に3回の食事を2回や1回に減らす羽目になったこともあったのだ。
 ゾロはコックの代わりに食料荒らしを撃退する意図を持って、怒鳴り込む勢いでキッチンの戸を開けた。
 だが、そこにいたのはルフィではなく、こじんまりとした小さな体だ。
 当然チョッパーでもない。
 フランキーに作ってもらった踏み台の上に立ち、コンロの上に乗っかったでっかい寸胴鍋を真剣に掻き回している小さな背中にゾロは呆れた息を吐いた。
 思わず時計を見上げてしまったが、月の高さで計った時間と大差はない。
 つまり、もう日が変わった、子供が起きているには似つかわしくない深夜であることに間違いはないのだ。
「子供は早く寝ろ!」
 思わず。
 本当に思わずだ。つい、そう怒鳴ってしまった。
 すると、鍋を掻き回していた細い腕がピタリと止まり、ゾロを恨みがましい目で睨みつけてくる。
「マリモもクソジジィと同じことを言うんだな」
 ムスッとした顔で悪態を吐かれた。
 クソジジィと言うのは、バラティエのオーナーのことだろう。
 何が気に食わないのか知らないが、こいつの言うところのクソジジィの言うことは間違っていない。
 幾ら見習いコックだからとは言え、子供がこんな時間まで起きて仕事をしているものではない。
 そりゃ世の中には奴隷として売られた子供だ何だと、身の境遇の上で言えば、夜遅くまで大人より働かされている子供もいるだろう。
 だが、こいつはそうじゃないんだ。
「いいから寝ろ!」
 コックは鍋の火を落としたようだったが、どうやらまだ寝る気は全くなさそうだ。
 いつもの癖なのか何なのか分からないが、今度は籠一杯のジャガイモの皮を剥こうとし始める。
 思い切り無視されたことに腹が立って包丁を握る手をゾロは掴んで止めた。
「俺は子供じゃないんだ!」
 コックが怒鳴り声を上げた。
「いや、子供だろうが・・・」
 今のコックにとっては当たり前のことであるゾロの突っ込みに、サンジは包丁を置くと、服のポケットを探り始めた。
「煙草だって吸えるんだぞ!」
 全く、こいつはどこからそんなものをかっぱらってきたのだろうか・・・。
 まあ、コックは元々がヘビースモーカーなので自分のロッカーにあったものを持ってきたのかもしれないが。
 子供が吸うものではない煙草をサンジは当たり前に口に咥えてみせる。
 普段のコックは、常に口に煙草を咥えている。
 火が点いていようと、点いていなかろうと、少しでも口に煙草がないと落ち着かないらしく、女部屋に入る時以外、その口から煙草の存在が消えたことは滅多にない。
 相当の中毒症なのだろうとは分かっていたが、それでもまさかこんなガキの頃からこいつが煙草を吸っていたとは思いもしなかった。
 俺だって酒は好きだが、流石にこんなガキの頃から酒を飲んでいたか? と言うと否だ。
 このコックは10歳前後だと言う話なのに、煙草を吸い始めて結構経っているのか火を点ける仕草も、煙を吸い吐き出す流れも淀みない。
 チョッパーあたりが見たら顔を真っ赤にさせて怒りそうだとも思った。
「止めとけ!」
 別に止めさせる義理はないような気もしたが、何故かガキのくせに煙草を噴かしているコックを見るのは不快だ。
「何だよ、返せよ!」
 取り上げられた煙草を取り返そうとコックが必死にぴょんぴょんと床を跳ねてゾロの腕にしがみ付こうとしたが、身長差が相当あるのだ。
 ゾロが少し上に手を上げるだけで、どんなにコックが跳ねようと、指の先すらゾロが奪った煙草には届きはしない。
「ガキは指でもしゃぶってろ」
「俺はガキじゃねえ!!」
 次の瞬間、腕に変な感触があった。
 見ればコックがゾロの腕に噛みついている。
 いつものコックなら直ぐに足癖の悪さを披露しているところだろうが、どうやらガキの頃のコックには噛みつき癖があるらしい。
 ゾロが少し腕を振れば、細く小さな体は呆気なく吹き飛んで床を転がった。
 ゾロの腕にはコックの幼い歯型がくっきりと残っている。

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